1:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 01:33:16.18 ID:kLIsZwOI0
ドアを開けると180°の寒風が締め付けて、背後からも迫って小悪魔的だ。
BNKRGは秋が嫌いだった。寒い上に学校も色々と行事がありドタバタして面倒くさい。その上炬燵やストーブにはまだ早い時期だからだ。
母親が編んでくれたマフラーも姉のSNNNが初任給で買ってくれたこの手袋もお気に入りではあるが、BNKRGは今一つ秋が好きになれなかった。
好きになれない理由はもう一つある。
「BNKRGさん、行きましょう」
思考を中断し顔を上げた。眼前のPSRは笑顔だ。二人はいつも一緒に登校する。
「あのねぇ、BNKRGでいいって言ってるでしょ。それかBN」
「あっ、ごめんなさい、つい」
何度言ってもPSRは呼び名を変えない。彼女にとっては『さん付け』が普通なのだ。
BNKRGも始めは距離感を感じたが、既に慣れてこのやりとりも半ばテンプレート化してきている。
「まあいいわ、行きましょ」
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2:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 01:34:11.38 ID:kLIsZwOI0
寒さで手袋が凍り付く。頬を撫でると、つるりと滑った風が表面を薄く薙いでいった。
昨日雨が降ったからか、通学路には所々水たまりができていた。BNKRGは行き返りの憂鬱さと寒さに顔をしかめた。
ほんの10日前まではまだ夏だったが、今年は寒波が早く、8月中旬にはすっかり秋の風に変わっていた。寒い地方である事が肌寒さに拍車をかける。
今夜は猫鍋にしよう。密かに決意する。
3:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 01:35:43.50 ID:kLIsZwOI0
「ん…BNKRGさん」
「あっ」
BNKRGは一瞬たじろいだ。そこには近所でも有名なイカババアこと、TISがいたのだ。
TISはBNKRGの近所に住んでいる、いわゆる近所の雷親父のような存在だ。もっとも、この外見でも本当は20代だという噂があるが……
4:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 01:36:28.62 ID:kLIsZwOI0
「BNKRGさん、最近気づいたんやけどアンタ猫をどこへ連れってるん?」
「別にどこだっていいでしょ」
「BNKRGさん、まさか猫を食べてたりしてへんやろな?」
ばれていた。図星を付かれたが、冷静を装う。
5:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 01:36:57.12 ID:kLIsZwOI0
「BNKRGさん、そんな暴言は」
「BNでいいって言ってるでしょ!」
6:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 01:37:47.65 ID:kLIsZwOI0
退屈な授業が終わるとBNKRGはPSRに見つかる前に下校した。
PSRに見つかると帰りに猫鍋用の猫を調達できないからだ。
母親のKNNがナースで忙しい日があり、BNKRGの家の夕食は当番制になっている。夕飯ごとにおかずを決められた額の間で買う。
残りはお駄賃としてもいいルールだ。
そこにBNKRGは目をつけた。
7:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 01:38:16.10 ID:kLIsZwOI0
しばらく猫を探すと一匹、丸々太った猫を見つけた。
丁度いい、この一匹で今日の夕飯の分をすべて賄ってしまおう。
鞄から睡眠薬入りの餌と麻袋と折り畳み式の網を取り出し、BNKRGは近づいていった。
3メートル程まで近づいたところで猫はこちらに気づいた。
目を丸くして近づこうとしたようだが、一瞬で網に気づいたようだ。賢い猫だ。
8:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 01:38:53.10 ID:kLIsZwOI0
塀まで追いつめた。猫は一匹だ。どうやら動きそうなので、網を携える。
猫が近づく、しかし塀には飛ばなかった。
逆に襲ってきた。慌てて網で襲う猫を追う。と、脇をすり抜けそうになった。
BNKRGはそれを逃さなかった。すり抜け逃げる猫に網をかぶせた。
しかし存外手強い。猫は網に入っても暴れた。猫も必死だ。
9:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 01:39:42.71 ID:kLIsZwOI0
「君は何をしているんだ」
咄嗟に振り返った。
「誰!?」
10:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 01:40:33.01 ID:kLIsZwOI0
顔に青筋がたっている。本格的にまずそうだ、BNKRGは身構えた。
だが、一瞬後には間合いを詰められスプレーのようなものを嗅がされていた。
狭まる視界。落ちる意識。BNKRGは、君にはそれ相応の罰を受けてもらおう、という声を耳にして意識を失った。
11:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 01:41:09.50 ID:kLIsZwOI0
意識を取り戻したBNKRGは困惑した。裸にされ、ベルトで雑にベッドに固定させられていたからだ。
移動させられた先は分からない、しかし触れる空気が温かい事から外ではない事は分かった。
12:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 01:42:06.37 ID:kLIsZwOI0
「そうだ、動物がいい」
「君は野獣になっていじめられたうちの子の気持ちが初めてわかるんだ」
誘拐犯が振り返った。目を見開いている。瞳孔すら開いてそうだ。
首に何かが刺される。注射…?体が変だ。頭がくらくらする。鈍痛がする。
13:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 01:42:53.27 ID:kLIsZwOI0
走り疲れてBNKRGは路地裏に逃げ込んだ。昼に雨でも降ったからか、路面には水たまりがいくつもできている。日は暮れかけていた。
自分が何をしたというのだ、ただ野良の猫を狩って食べてただけなのに。BNKRGは落ち着くと同時に次第に腹が立ってきた。
ピチャ、と不意に水たまりを踏んでしまった。冷たさで飛び上がる。が、何かがおかしい。手を振っても水気がなかなか落ちない。
それにいつもより見える風景が低い。
水たまりを見つめる。
14:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 01:44:05.87 ID:kLIsZwOI0
混乱してしばらく何も声が出なかった。顔をひたすら触っては触っては確かめる。確かに猫だ。
「嘘でしょぉー」
続いて間の抜けた声が出た。叫び声というよりは鳴き声であり泣き声だ。目も若干潤む。
15:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 01:47:53.06 ID:kLIsZwOI0
時間切れで薬が切れるという可能性も考え付いたが頭を振って却下した。むしろ時間が経ってしまえば定着してしまう可能性もある。
それに時間制限で薬が切れた場合どうなる?自分は今生まれたままの姿だ。
このまま服を取り戻さず戻ってしまえば、自分の最高級に魅力的な裸体が浮浪者のおっさんや無法者の土方の兄ちゃんに狙われてしまうかもしれない。流石にそれは御免こうむりたい。
つまり先決すべきは元の家に戻る事なのだが……
16:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 01:48:37.77 ID:kLIsZwOI0
「どうもこんちわっす。君名前…君名前なんて言うの?」
背後で声がした。振り返る。そこには茶色く、さわやかそうなオス猫がいた。
そうだ。今のBNKRGは猫だ。猫ならば猫の言葉が分かるのは当然だ。
17:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 01:49:08.76 ID:kLIsZwOI0
「おお、いいねぇその体」
全身をくまなく見られ恥ずかしい。
「俺はGO、この辺の群れのリーダーやってるんだ」
18:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 01:49:43.82 ID:kLIsZwOI0
暗闇からも勧誘の声がする。群れの中からもなぶるような視線をまじまじと受けていた。
思案する。ここで大人数になるのも心強い。群れに入ってじっくり誘拐犯の家を探すのも悪くないのかもしれない。もしかしたらALISONの家を知っている猫もいるかもしれない。
しかしいかんせんBNKRGは先程頭をよぎった『猫の体で定着』という言葉が頭を離れなかった。
「い、いやよ、私他の群れだし」
19:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 01:50:11.05 ID:kLIsZwOI0
「あのさぁ…」
「じゃあ群れの名前を教えてくれるかな?」
「入群キャンセルはキャンセルだ」
「どうして?どうして入ってくれないの?僕が馬鹿だから?僕は馬鹿じゃない!僕は馬鹿じゃない!!」
「これ以上追求したら困惑しちゃう、もういいよ、やばいやばいやばい」
20:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 01:50:47.06 ID:kLIsZwOI0
「あのさ、嘘は良くないと思うんだけどさ」
GOに図星をつかれた。
「お前とりあえずぅ、群れに入ってこい」
21:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 01:51:23.31 ID:kLIsZwOI0
「まま、そう焦んないで。あのー一応個人的なんだけど……入群する条件あって、一つだけだから」
「入群する条件?」
「どこにもあるものだけどね。うちはセッ○スで、異性でも同性でもみんな新入りと一度はやれる権利があるんだ」
「は?」
「群れに入れなくてぼっちになってたんだろ?入群条件欲しいんだろ?あげるよ。パパパッと全員と経験してチャチャチャッと入ればいいだけ」
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