32:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:22:30.06 ID:/E20kLoAo
「だって、反対するじゃないですか、フツウ。
歌手なんて厳しい道で、……それに、調べてみたら私の年齢じゃ、条件に合わないところも多くて」
「ああ、12歳だと受けられないところもあるのね」
33:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:23:32.45 ID:/E20kLoAo
「反対するのがフツウじゃないですか。
夢みたいなことだって、条件だって満たしてないのに。
母は……ちょっと親バカなんです。話を聞いてすぐ申し込んじゃうし、問い合わせまでしちゃって」
そんな風に、ありすはポツポツと愚痴をこぼした。
34:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:24:39.04 ID:/E20kLoAo
「橘さん」と、私は彼女の言葉を遮った。
「オーディションが急に決まって、しんどいよね」
「いえ、……あの、私が言い出したことなので」
35:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:25:55.46 ID:/E20kLoAo
「先生ってすごいですね」
そう言って、ありすは頬を掻いた。
「どうしてそう思ったの?」
36:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:26:41.66 ID:/E20kLoAo
きっと違う。ありすは誤解している。
たぶん、ありすの母が、ありすをすこしだけ誤解しているように。
けれど、それを知らせることは私の仕事でないような気がして、言葉を飲み込んだ。
教師というのは、こういうとき損な役だ――、と思った。
37:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:28:12.26 ID:/E20kLoAo
――――
週明け、秋雨は乾いた。
窓にはピンと張った布のように凪いだ空――、どこまでも透き通って、宇宙まで青い色を届けそうだった。
雲が細く連なって、風の形を描いているのを見ると、気持ちもなんだか清々しい。
38:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:29:35.30 ID:/E20kLoAo
「不合格でした」
私があんまり残念そうな顔をしていたせいかもしれない。
ありすは大人びた笑いを浮かべて、延々とオーディションの話を続けた。
39:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:30:52.53 ID:/E20kLoAo
「母も、ずいぶん残念がってましたけど、……だけど、甘いんですよ。
そうは思いませんか?」
「どうかな、先生は……」
40:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:32:17.87 ID:/E20kLoAo
「私、ひとりぼっちなんです」
オーディション以来、それはありすの口癖になった。
「先生だけですね、私の味方は……」
41:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:32:51.84 ID:/E20kLoAo
「アリスとありすで、二人ぼっち。ひとりじゃないから、寂しくない。ね?」
「――――」
ありすが言いかけたらしい言葉は、はらりとほどけて宙に舞い、口元へ幼いはにかみだけを残した。
42:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:35:10.19 ID:/E20kLoAo
「ふふっ。……ああ、すみません、時間なのでそろそろ行きます」
そう言って、ありすは腰を上げた。
すっかり長話が習慣になってしまった。
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