27:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:06:01.77 ID:2O49l66V0
しかし、難しいのか。プラプラと眼前でルアーを揺らしたが、今日もボウズ、太公望を気取ることになりそうだな、と思った。
「ハゼ釣り用の仕掛けも借りるべきでしたね」
「いやあ、どちらにせよ変わらないよ」
28:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:08:44.62 ID:2O49l66V0
「良いですよね。仕掛けを投げて、波紋が広がって……落ち着きます」
彼女は独り言のようにそう言う。
俺が見惚れていたのに気づいたんだろうか、とびくりとした。ふと、不審者だったときと同じ格好をしていることを思い出した。
29:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:10:15.45 ID:2O49l66V0
しばらく、俺の竿には当たりもなく。
三十分ほど投げては巻き、投げては巻きを繰り返している。
一方肇の竿には何度か当たりがあったらしく、合わせを入れては首を傾げていた。
30:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:12:35.44 ID:2O49l66V0
「黒鯛?」
「いえ、たぶん根魚ですね」
彼女はギュルギュルとリールを巻く。「美味しいやつだ」
31:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:13:35.94 ID:2O49l66V0
わあわあと二人で盛り上がり、バケツにカサゴを入れる。
カパカパとエラ蓋を開き呼吸をしているが、君は明日の味噌汁になる運命であるよ。
彼女は再びルアーを投げた。
32:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:14:22.37 ID:2O49l66V0
しかし、彼女は表情を少し暗くする。
俺は竿を動かすのをやめて、「どうかした」と聞いた。
彼女は顔を横に振った。
33:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:15:38.38 ID:2O49l66V0
思うに、俺は彼女のそんな目に「夢」を見たのだ。
一度夢破れ、ぼんやりとした目的でプロデューサーになり、なったといえど音楽の知識が活きたことも多くなく。
丁度、色々と忘れそうになった頃に、彼女に出会えた。去年、あの日着ていた服を着ているから、これほど彼女との出会いを思い出しているのかもしれない。
34:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:17:15.78 ID:2O49l66V0
そう、俺はあの時の夢をまだ半分も叶えちゃいなくて、彼女は夢の先で待っているのだ。
俺はまたルアーを投げた。何も当たりがなかったけれど、負けじともう一度投げる。二度、三度。
朝が随分と近くなっていた。
35:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:18:25.51 ID:2O49l66V0
直後の、ゴン! という重さと、急激にしなる竿。ギリギリとハリスを吐き出そうとするリールに、俺は悲鳴を上げた。
「は、肇っ! なんか、うお、すげぇ引くんだけど!」
36:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:19:42.95 ID:2O49l66V0
「チヌですかっ⁉︎ ドラグ……ドラグを緩めてください!」
わかんねえよ、俺釣り初心者だもの! ドラグってどこだ、肇助けてえ、と、さんざ情け無いことを言った。
「大丈夫ですよ、大丈夫です……。私がいますから」
37:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 03:21:18.51 ID:2O49l66V0
俺と肇は、魚をゆっくりと手繰り寄せる。
「いつも、これまでも二人でなら出来たんです。なんだって」
それはだいぶ近づいたと思いきや、すぐさま逃げようと走る。
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