9: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 14:52:58.63 ID:r5zFZECu0
ココアを作る僕の横で彼女は紙袋から取り出したバゲットを薄く切って、それをオーブンで温めていた。
「どうしてそんなものが?」
ふと気になって聞くと、薄く頬を染めて彼女が答えた。
10: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 14:54:00.56 ID:r5zFZECu0
それらをテーブルまで運ぶ。
テーブルを挟んで向き合う形で、ソファに腰かけた。
「それじゃあ、まあ、今年もお疲れさまでした」
11: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 14:54:54.55 ID:r5zFZECu0
ココアを一口飲んだ彼女が驚いたように僕を見る。
「なんか味、変だった?」
心配になって尋ねると、彼女は小刻みに首を振った。
12: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 14:57:39.20 ID:r5zFZECu0
「そうだ、クラリス」
バゲットを齧りながらアイデアを一つ、思いついた。
それを少しだけ自分の中で膨らませる。すると、考えるほどに素晴らしいもののように思えてくる。
13: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 14:58:32.46 ID:r5zFZECu0
「まあまあまあ!」
彼女が驚いた声を上げる。
「ささやかだけど、今年も無事に終わったことのお祝いに」
14: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 14:59:17.22 ID:r5zFZECu0
出会った当時の彼女は、二十歳だった。
その時もたしか十二月だった。
15: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:00:30.05 ID:r5zFZECu0
その年の十二月は、今思い返せばことさら寒かったような気がする。
都心にも何度か雪が積もったし、なによりも空気が冷ややかだった。
安物のマフラーと手袋では、誤魔化しきれないほどに。
16: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:01:13.40 ID:r5zFZECu0
そんな中で彼女は、ちかちかと明滅する一本の街灯の下に佇んでいた。
はっとして僕は、歩くのをやめてその場に立ち竦む。
17: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:02:11.70 ID:r5zFZECu0
僕は再び歩を進めながら、彼女を見つめた。
身を包んでいる簡素な服はとうてい防寒具には見えなかったし、袖から覗く手は、寒気に晒されて真っ赤だった。
それでも控えめに笑顔を振りまく彼女は、紙きれのようなものを配っていた。
18: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:03:05.85 ID:r5zFZECu0
「寄付をお願いいたします」
修道服姿の彼女が僕に差し出してきた紙には、端整な字と、少しばかりの絵柄とがあった。
微かに触れた彼女の指先は、彫像のように冷えきっていた。
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