12: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 14:57:39.20 ID:r5zFZECu0
「そうだ、クラリス」
バゲットを齧りながらアイデアを一つ、思いついた。
それを少しだけ自分の中で膨らませる。すると、考えるほどに素晴らしいもののように思えてくる。
13: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 14:58:32.46 ID:r5zFZECu0
「まあまあまあ!」
彼女が驚いた声を上げる。
「ささやかだけど、今年も無事に終わったことのお祝いに」
14: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 14:59:17.22 ID:r5zFZECu0
出会った当時の彼女は、二十歳だった。
その時もたしか十二月だった。
15: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:00:30.05 ID:r5zFZECu0
その年の十二月は、今思い返せばことさら寒かったような気がする。
都心にも何度か雪が積もったし、なによりも空気が冷ややかだった。
安物のマフラーと手袋では、誤魔化しきれないほどに。
16: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:01:13.40 ID:r5zFZECu0
そんな中で彼女は、ちかちかと明滅する一本の街灯の下に佇んでいた。
はっとして僕は、歩くのをやめてその場に立ち竦む。
17: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:02:11.70 ID:r5zFZECu0
僕は再び歩を進めながら、彼女を見つめた。
身を包んでいる簡素な服はとうてい防寒具には見えなかったし、袖から覗く手は、寒気に晒されて真っ赤だった。
それでも控えめに笑顔を振りまく彼女は、紙きれのようなものを配っていた。
18: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:03:05.85 ID:r5zFZECu0
「寄付をお願いいたします」
修道服姿の彼女が僕に差し出してきた紙には、端整な字と、少しばかりの絵柄とがあった。
微かに触れた彼女の指先は、彫像のように冷えきっていた。
19: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:04:05.56 ID:r5zFZECu0
「あの」
「はい、なんでしょう?」
彼女の、絹のようにすべらかな髪が揺れるさまを見つめる。
20: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:04:54.50 ID:r5zFZECu0
「ありがとう、ございます」
愛らしい、花のような笑顔だった。
21: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:06:06.50 ID:r5zFZECu0
事務所に帰り着くと、まだちひろさんが残っていた。
どこだって大抵はそうなんだろうけど、うちの業界も年末は忙しい。
22: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:07:20.28 ID:r5zFZECu0
「え、僕、ぼんやりしてます?」
「ええ、心ここにあらずって感じですけど」
頷きながら彼女は、くすくすと笑っている。
74Res/35.53 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20