193:名無しNIPPER[saga]
2017/09/19(火) 20:06:07.92 ID:k1yJYnNv0
扉を閉めると客席の喧噪はここまで届かないようで、部屋はシンと静まり返る。
それでも、備え付けのモニターテレビにはステージを俯瞰する角度で映しているので、最前列付近の様子は確認できた。
「いよいよだな。緊張してないか?」
194:名無しNIPPER[saga]
2017/09/19(火) 20:09:04.75 ID:k1yJYnNv0
「よし、行くか。今までの頑張りを見せて、ファンの度肝を抜いてやれ」
「はい! あの、プロデューサーさんにお願いがあるんですけど……聞いてくれますか?」
「俺に? そりゃ構わないが」
195:名無しNIPPER[saga]
2017/09/19(火) 20:11:45.64 ID:k1yJYnNv0
………
……
…
彼女をスカウトしたのは半ば勢いだった。
196:名無しNIPPER[saga]
2017/09/19(火) 20:14:59.24 ID:k1yJYnNv0
「待てッ!」
反射的に叫んだ。
屋上の少女はびくりと体を引いて、下からは見えなくなる。
197:名無しNIPPER[saga]
2017/09/19(火) 20:16:38.11 ID:k1yJYnNv0
屋上の扉を勢いよく開け放つと、日暮前の低くなった夕日に視界を奪われた。
目を細めた先、逆光の中立ち尽くす少女に訊く。
「まずは自己紹介。俺はアイドルのプロデューサーをやってる者だ……君の名前は?」
198:名無しNIPPER[saga]
2017/09/19(火) 20:19:03.65 ID:k1yJYnNv0
何が幸せで不幸せかなんてものは一概には言えないのだろうが、それでも、白菊ほたるは不幸体質といっても差支えなかった。
幼いころから身の回りでは良くないことが頻発して、周りからも疎ましがられているようだった。それは両親にアイドル活動をする許可をもらいに実家へ訪問したときにも感じた。
実の家族からもまるで腫物を触るかのような扱いで、逆にプロダクションに迷惑がかかりますがそれでもよろしいんですか、と念を押されたときは怒鳴り散らしてやろうかと一瞬頭をよぎった。
誰からも愛されず、そして誰よりも優しい彼女は、思いつめた結果廃ビルへ足を運んだのだろう。
199:名無しNIPPER[saga]
2017/09/19(火) 20:20:41.86 ID:k1yJYnNv0
守ってあげたくなるような少女に、男は弱い。
その儚げな中に時折垣間見える芯の強さも、彼女の魅力だ。
もちろん、すぐに上手くいったわけではない。
現場に向かえば渋滞やダイヤが乱れ、やっと到着したかと思えば機材が故障して撮影が中断したことも、1度や2度ではない。
200:名無しNIPPER[saga]
2017/09/19(火) 20:25:26.71 ID:k1yJYnNv0
………
……
…
ライブも終盤に差し掛かり、熱狂が渦となって会場を包む。
201:名無しNIPPER[saga]
2017/09/19(火) 20:33:03.82 ID:k1yJYnNv0
『プロデューサーさんへ
こんな形でしか伝えられなくてごめんなさい。
私をここまで連れてきてくれて、本当にありがとうございます。
お願い通り、一番盛り上がっているときに楽屋で読んでますか?
202:名無しNIPPER[saga]
2017/09/19(火) 20:40:32.43 ID:k1yJYnNv0
でも、駄目でした。
首を吊っても、縄が切れました。
手首を切ろうとしても、刃がなまくらみたいに切れなくなりました。
薬をたくさん飲んでも、意志とは無関係に吐きました。
飛び降りも、入水も、感電も、練炭も、全部駄目でした。
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