18:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:02:35.78 ID:5FDHqpH0O
「さみだ……ああ、貴方が噂の新人さんですかい」
突然、右からハスキィボイスの女に呼びかけられ私は驚いた。あわてて右を振り返ると桃色の髪をしたこれまた艦娘のような女が立っていた。女はロシアンブルーを抱いていた。猫は私を睨むなり、にゃあと挨拶する。左目が青、右目が黄色のオッド・アイが特徴的な猫である。それから私は視線を女に移し口開く。
「君も艦娘かね?」
「ええ、『艦娘』ですよ。といっても、戦力にはならないですがね」
「となると、あなたが工作艦の明石ということかな」
19:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:03:17.10 ID:5FDHqpH0O
「それではなぜ、名簿にないのだ?」
「何故も何も、あなたは私の司令官ではないからに決まっているでしょう」
「となると、ここの前任者の所属ということか」
「ええ、そういうことになります。ただ、上官の命令でここに残ることになっているので、私はこれからあなたの命令を受けて開発、建造、整備、解体の仕事をすることにはなります。もちろん、あなたが海域突破報酬……俗に言うドロップで私をこの司令部に編入させる事が認められれば、あなたは晴れて私を指揮下に置く事ができますよ。それまでは、私はあなたから命令されても装備品の改修と出撃、演習、遠征等は行いません――」
20:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:04:26.29 ID:5FDHqpH0O
「なるほど。よく分かった。ということは、前任者の事を知っているわけだ。
もしよかったら少し――」
「それはできません」
明石は半ば私の言っている事を遮って断った。
「それはどういう訳かな?」
21:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:05:19.59 ID:5FDHqpH0O
「そういえば、今日の五月雨のトマトシチューは美味しかったですね。あなたはどうでした?」
急に明石は話題を変えて、夕飯の話をはじめた。というか、明石も五月雨の夕飯を食べていたのか。通りで量が多く作られていた訳だ。ではなぜ、そう言わなかったのだろう。
「ああ、美味しかったよ。あと、ここでは司令官は一人だから私のことは司令と呼んでくれてもいいんだよ」
「いえ、あなたは私からすれば司令じゃないので……それにあなたは少佐でしょう?」
鼻につくような言われかたをされ、少々私は苛立ちを覚えた。
22:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:05:49.67 ID:5FDHqpH0O
「――中佐ですが」
な、中佐だと。まさか私より階級が上の者がこの司令部にいるとは……。
「……申し訳ない、です。ならば、私のことは少佐とでも呼んでください」
「ええ。私のことは中佐とでも明石中佐とでも呼んでくださいな。あと、あなたは此処では司令なのですから、私にはタメで大丈夫ですよ」
「ああ、助かるよ。明石中佐。それで早速なんだが、中佐に建造を頼みたい」
23:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:06:20.70 ID:5FDHqpH0O
そう、これは島風や雪風、また、育つと強い阿武隈や由良、摩耶などが出るレシピである。着任したときに上官から聞けた唯一のレシピだ。
「最初から飛ばしてきますねー。最初は無難に30・30・30・30じゃないんですね」
「ああ、最初から狙っていくのが大事だ」
「了解です、それでは待っていてくださいな」
明石中佐はそういうと、工廠に備え付けられている一室に戻っていった。ロシアンブルーもその後に続く。部屋の前で猫は立ち止まると私に顔を向ける。一瞬右目が煌いた様に見えた。その後直ぐに部屋の中へとするりと入っていくのであった。どうやら彼女らはここに住んでいるようだ。
24:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:06:50.69 ID:5FDHqpH0O
翌朝、あんなにあったトマトシチューは既になく、私は五月雨が作ってくれたご飯と味噌汁、塩鯖を頂いた。今日も多くつくられていたが、明石を入れても鯖の数が二尾多いなと思った。
「明石中佐って大食いなのかい?」
「え! あ、そうですよー! 明石さんはいっぱい食べる方みたいです」
「ああ。でも、なんで昨日、明石中佐がいることを教えてくれなかったのかい?」
25:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:07:28.30 ID:5FDHqpH0O
「工廠も艦娘たちにとっては、神聖というか絶対領域というかんじです。艤装をつけるときに着替えたりもしますから……」
「そうか……規律には特になにも書いてないからいいとは思ったのだが……」
「規律ではなく、慣習というか司令官としてのマナーだと思います」
五月雨はそうはっきりと言うと、ご飯を平らげた。
なんか、悪しき慣習のようにも思えた。が、仕方があるまい。女の子にも見られたくないところがいっぱいあるのだろう。そうでなくても、最近はセクハラとかで退任に追い込まれる司令官も多くいると聞く。私自身も気をつけねばと気を引き締めた――。
26:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:07:58.90 ID:5FDHqpH0O
午前、司令室で執務を執っていると、桟橋に小船が着いているのが見えた。すると、一人の女子が降りてきた。後ろを太く三つ編みした女子である。なるほど、彼女が新しく着任する艦娘か。
建造のことはよく分からないが、どうやら明石中佐は海軍工廠本部にレシピを伝達し、本部はこの司令部に見合った艦の艤装の生産を命令して、適合者を送るようである。そんな訳で残念ながら見たところ、雪風や島風ではないし、由良や阿武隈、重巡洋艦クラスという感じでもなかった。まぁ、当たり前だが、素人司令部にしょっぱらからそんな優秀な子を送るはずはないのだ。
――にしても、どっかで見たことのあるような気がした。
27:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:08:46.53 ID:5FDHqpH0O
コンコンコン
「どうぞ」
「失礼しま……えええええ!」
「はい? あああああ」
28:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 13:09:25.16 ID:5FDHqpH0O
妹は艦娘の制服を着ているとは言え、私自身も着任したばかりだから、まだちょっと見分けがつかないのだ。
「えー。昔、私が船になって戦う夢のことをよくお兄ちゃんに話してたと言うのに??」
「あー、そういえば、そんなこともあったな。よく見ててうなされた夢だろう。でも、それだけじゃ分かんないよ」
そういえば、妹は小学生のころ一時期、船になって敵の船や飛行機と戦ったり、潜水艦を船から落として罪悪感に駆られたりする夢にうなされている事をよく私に話してくれた。艦娘はよく自分がなっている艦の一部の記憶を持っていると言うが、妹もまさにそういうことなのだろう。
「私はね、スーパー北上さまだよ☆」
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