108:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 23:46:25.26 ID:xy6mxyet0
「それで、司令官の妹さんは今なにをされてるんですか??」
――そこにいる。が、それは上官の命令でアウトだ。
カウンタ席に座った妹もその質問を聞いていたのか、私に視線を据えていやがる。
「え、あ、妹とはあまり連絡とってなくてね。
大学受験うまくいかなくて二浪してて、今年三月の時点でもうまくいってないって聞いたから三浪してるんじゃないかな、あははは……」
109:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 23:47:17.18 ID:xy6mxyet0
「ですよね〜。私の妹もかわいくてしょうがないです!
あっ、北上さんは兄弟とかいるのかなっ??」
妹は突然の問いにあたふたする。
「えっ、あっ、私? 私はおにいちゃ、あ、兄がいるよー」
「北上さんってお兄ちゃんって呼ぶの!? かわいい!」
110:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 23:48:23.99 ID:xy6mxyet0
「そ、そうなんだね。でも、お兄ちゃんとか私も欲しかったな〜」
私がなってもいいんだよ。と言いたいところだがそれはやめておいた。
そうこうべらべらお喋りしている裡に、ざっと6人前はあるであろうカレーができたのであった。
111:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 23:49:22.31 ID:xy6mxyet0
夜、私は明石中佐にカレーを届けに司令部庁舎を出て工廠に向かった。
工廠の前に立つと、私はインターホンを押す。
明石中佐はすぐに出てきた。
112:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 23:50:35.97 ID:xy6mxyet0
「……身近な人がいなくなるという経験を私はまだ経験していないけれど、想像しただけで怖い……」
「そう、他人の死は寂しさや悲しさ、孤独を感じさせるだけでなく、自分の死を彷彿させるので怖いことです。
私らが無限でないことを教えてくれるから……」
「はい、中佐が少し前にそれに遭ったと思うと居た堪れない」
「でも、艦娘というのは、轟沈した後は深海棲艦となります。
113:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 23:52:05.54 ID:xy6mxyet0
「あ、ああ」
珍しく明石中佐は熱く隣で語っていた。
アカトゥルフにはそれが子守唄に聞こえているらしく、中佐の足元で丸くなって寝ている。
「人が『死』を真に恐れるのは、死ぬまでの痛みや過程とかではなくて、自分自身の積み上げた全てが崩壊して無に帰すからです。轟沈も同じです。
――果たして、身体という入れ物は一緒でも、自我や記憶を失ったあとに作られる『自分』は轟沈する前の『自分』と一緒でしょうか?」
114:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 23:53:05.67 ID:xy6mxyet0
「……中佐は仲間想いなんだな」
それを聞いた明石中佐は煙草を口から離すと、笑わせないでくれと言うように鼻で笑った。
「私がですか? そんな事ないですよ。
少佐も知っての通り、私は一人で行動する事が多いですし、それに、本当に仲間想いならこの事件を防げた筈です。
仲間想いなら私が疑われるような事はない筈です……!」
115:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 23:55:20.00 ID:xy6mxyet0
明石中佐はそう言って、煙草をもう一本吸うのかスカートのポケットに手を伸ばした。
「――中佐、この事件はここの司令官である私が必ずや解明してみせます。
それが、この五神島泊地のあとを継ぐ私の使命と考えている――」
私は中佐の前に立って、そう意を決した。
116:名無しNIPPER
2017/08/08(火) 23:56:26.07 ID:xy6mxyet0
「中佐は事件の全容を知りたくないのか?」
「もちろん知りたいですよ。……でも、少佐の事を思えば、関わって欲しいとは思いません。
少佐の性格からして、事件解明の途中できっとどこかで命令違反や軍規違反を起こす事になるでしょうから」
「なっ、それはどういう事だ??」
明石中佐は私の問いに答えず背を向けると、アカトゥルフを抱いて、工廠の中へと帰っていくのであった――。
117:名無しNIPPER
2017/08/09(水) 00:05:33.26 ID:hojLDG6p0
今夜はここまでです。明日もまたニーズがあれば記しましょう。
五月雨に栄光あれ……
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