1: ◆nIlbTpWdJI[saga]
2017/07/17(月) 21:49:43.82 ID:b3owXeO0o
雲がまばらに浮かんでいる青空は、遥か遠くにある一筋の水平線から大海原に切り替わる。
まっすぐな水平線上は何べんも重なった波にどこからか崩されて乱暴に動き続けている。
波は太陽の光をあっちこっちに跳ね返し水底を隠し続けている。
遥か彼方の向こうからやってきた水平線は、海に乗っかった黄色い浮き二つを潜り抜け、コンクリートの桟橋にぶつかり砕け散った。
水飛沫は潮風に乗って釣り竿を握る手に降りかかる。照り付ける日差しにうんざりしては、冷たい飛沫でまた気分が変わる。
冷たいような生ぬるいような潮風を嗅ぎながらぼんやりと水平線を眺めていると、二つ並んだ浮きの片方がすこし沈んだ。
隣に座る少女はすぐに竿を引っ張り上げてしまった。
よっぽどの大物を期待していたのか、釣り竿を引っ張ろうとしたまま後ろにひっくり返ってしまった。
日よけに被っていたつばの広い麦わら帽子は滑り落ちてしまい、鮮やかな金髪が潮風でふわりと広がり陽に照らされ眩しいくらいだ。
ぽてん、と倒れたまま青い瞳が空中でぶらぶら揺れる何もついていない釣り針を捉えている。仰向けにひっくり返った褐色の肌の少女は残念そうにつぶやいた。
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2: ◆nIlbTpWdJI[saga]
2017/07/17(月) 21:51:12.37 ID:b3owXeO0o
「おおぅー……エサだけ取られてしまいましたです」
「あちゃー。竿ひっぱるのが早かったのかな」
3: ◆nIlbTpWdJI[saga]
2017/07/17(月) 21:52:24.67 ID:b3owXeO0o
じりじりと照り付ける日差しが何とも鬱陶しい。
竿を握る手にも力が入ってしまう。
4: ◆nIlbTpWdJI[saga]
2017/07/17(月) 21:53:45.53 ID:b3owXeO0o
「釣れないなぁ……」
「釣れませんです……」
5: ◆nIlbTpWdJI[saga]
2017/07/17(月) 21:55:33.40 ID:b3owXeO0o
また、何度か浮きは魚が来たぞと震えたりもしたが、俺たちは釣り上げることができなかった。
そのたびに水筒の麦茶が減っていく。
6: ◆nIlbTpWdJI[saga]
2017/07/17(月) 21:56:45.10 ID:b3owXeO0o
どれくらい経っただろうか。
気の抜けたまま随分とぼんやりしていたようで、腰かけているコンクリートの桟橋に汗のあとが点から奇妙に歪んだ円形に広がっていた。
7: ◆nIlbTpWdJI[saga]
2017/07/17(月) 21:57:36.49 ID:b3owXeO0o
「どうした?」
不思議に思い、餌を付けながら声をかける。ライラさんはいつもと変わらないのんびりした声で答えた。
8: ◆nIlbTpWdJI[saga]
2017/07/17(月) 21:58:15.29 ID:b3owXeO0o
「いろんなところ、か」
「いろんなところでございます」
9: ◆nIlbTpWdJI[saga]
2017/07/17(月) 21:59:03.33 ID:b3owXeO0o
「そうか……ライラさんと一緒に釣りに来てよかったよ。ライラさんが好きなことを一つ教えてもらえた」
「ライラさんはプロデューサー殿と一緒にいれるだけで満足でございますよー」
10: ◆nIlbTpWdJI[saga]
2017/07/17(月) 21:59:53.08 ID:b3owXeO0o
「アイスでございますか」
「アイスでございますよー」
11: ◆nIlbTpWdJI[saga]
2017/07/17(月) 22:01:08.45 ID:b3owXeO0o
隣に座る少女の青い瞳は、遠く広がる海と空と同じくらい透き通っている。
そのとき、ライラさんの浮きがぴくん、と沈んだ。釣り竿が逃すまいとしなっている。
12: ◆nIlbTpWdJI[saga]
2017/07/17(月) 22:02:13.04 ID:b3owXeO0o
ライラさんと釣りに行きたくてこうなりました。
今年の夏は海に行きたい。
ありがとうございました。
13:名無しNIPPER[sage]
2017/07/20(木) 22:49:31.76 ID:knQxff2To
乙
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