二宮飛鳥「美波さんにボクの歌が歌えるわけがない」
↓ 1- 覧 板 20
9:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 09:00:46.90 ID:jKZID4Vr0
屋上に来れば少しは気分が晴れるかと思いきや、厚みと高さのある雲がそこかしこに散っていて空からの明かりを遮っていた。
初夏のぬるい風を受けながら、闇と光の境界線を眺める。
世界から取り残されたような雰囲気の中、屋上入り口の古びた扉が開く音がした。
10:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 09:01:26.99 ID:jKZID4Vr0
「今度のライブ、一緒に頑張ろうね」
「ああ」
飛鳥は生返事をして、上着のポケットに手を入れる。
11:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 09:02:18.00 ID:jKZID4Vr0
「歌う姿も、すごく格好良くて」
「そうか」
「この曲、とっても好きだよ。共感できる部分があるから」
12:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 09:03:17.25 ID:jKZID4Vr0
その感情は、独占欲と、そして、恐怖だった。
自分の居場所を、アイデンティティーを奪われる恐怖。
学芸会でお姫様の役になれないからと駄々をこねる子供のようなものだ。
13:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 09:03:51.54 ID:jKZID4Vr0
世間一般的に必要とされる、求められる存在は間違いなく美波だろう。
いくらマイノリティを気取っても、社会の枠組みからは逃れられない。
日常から外れた存在だとしても、他者がいるからこそ自分が観測される。
14:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 09:04:44.34 ID:jKZID4Vr0
その存在は、闇から覗くには、あまりに眩しすぎた。
そんな飛鳥の反応に、美波は眉尻を下げた。
「あ……ごめんなさい。失礼なことを言って」
15:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 09:05:38.93 ID:jKZID4Vr0
ポケットから手を出し、謝罪の意を伝える。
「ごめん、美波さん……こちらこそ、言い過ぎた。本当にすまない」
プロデューサーが「飛鳥と美波で話してみればわかる」と言っていたのを思い出した。
16:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 09:06:54.70 ID:jKZID4Vr0
少しの押し問答の末、美波はゆっくりと話し出す。
「私も、実は不安なことばかりで」
あんまり、そう見えないってよく言われちゃうんだけどねと、困ったように笑った。
17:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 09:08:39.16 ID:jKZID4Vr0
「私、実は飛鳥ちゃんに憧れてるんだ」
「え……?」
「飛鳥ちゃんは私と違って強いから、自分というものを持っているでしょう? だから、周囲に合わせたりしなくても、生きていける」
18:名無しNIPPER
2017/07/14(金) 09:10:09.48 ID:jKZID4Vr0
どうすればいい。
お互いに一歩、踏み寄ればいいのに、きっとそれは簡単でとても難しいこと。
考えあぐねていたそのとき、親友の顔が頭に浮かんだ。
26Res/16.51 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20