4:名無しNIPPER[sage saga]
2017/06/26(月) 19:25:01.53 ID:sKp9/69N0
〜〜〜〜〜
チキンにかぶりつこうとした時、玄関から乱暴だが弱々しいノック音が聞こえてきた。
最初は荒れ狂う雪と風のせいで玄関ドアが鳴いているだけだと思っていたが、どうやら人の声もする。
こんな大雪の日に何の用か。
5:名無しNIPPER[sage saga]
2017/06/26(月) 19:25:43.24 ID:sKp9/69N0
しかし来訪者とあらば追いかえさなくてはならない。
うちにはTVもなければパソコンスマホその他液晶を持つ機械類は時計や体温計でさえ置いていないのだから、
公共放送の集金なぞ鼻も引っ掛けないはずなんだが。
玄関ドアを開けると、誰もいない。
6:名無しNIPPER[sage saga]
2017/06/26(月) 19:26:12.23 ID:sKp9/69N0
──ああ、そうだ。この子は。
7:名無しNIPPER[sage saga]
2017/06/26(月) 19:27:16.68 ID:sKp9/69N0
俺はやっと思い出した。この子は俺がプロデューサー業をやっていた頃の担当アイドルだった少女たちの一人、龍崎薫だ。
「薫じゃないか。久しぶりだな。どうしたんだ、こんな大雪の中で」
「せんせーに会いたくなっちゃって!」
8:名無しNIPPER[sage saga]
2017/06/26(月) 19:28:05.18 ID:sKp9/69N0
〜〜〜〜〜
「えへへ、せんせーのおうち、あったかいね!」
「俺自身寒がりだからな……暑かったら暖房弱めるからいつでも言っていいんだぞ」
9:名無しNIPPER[sage saga]
2017/06/26(月) 19:29:34.07 ID:sKp9/69N0
スピード、ババ抜き、協力7並べ、ルール追加大富豪。
トランプの定番と言えるゲームをひとしきりやっていると、あることに気づいた。
薫の額に、汗が滲んでいる。
それに心なしかトランプも、少しふやけている。手汗のせいか。
10:名無しNIPPER[sage saga]
2017/06/26(月) 19:30:05.86 ID:sKp9/69N0
〜〜〜〜〜〜
ちょうど米を炊いておいてよかった。俺は炊飯器の蓋を開け、
平らな皿にありったけの中身をよそい、もう一枚の平らな皿の隣に並べた。
手を洗い、塩を用意して、握るのに備える。
懐かしい光景だ。あの頃は、もっと他のアイドル達に急かされながら準備していた気がする。
11:名無しNIPPER[sage saga]
2017/06/26(月) 19:30:52.08 ID:sKp9/69N0
そんなやりとりをしながら、俺は現役時代の思い出を振り返っていた。
スカウト、オーディション、事務仕事に、送迎。
時には泊りがけのロケでついでにバケーションしちゃったり。
最初期の頃はレッスンなんかも俺がやってたっけな。懐かしい。
12:名無しNIPPER[sage saga]
2017/06/26(月) 19:32:09.38 ID:sKp9/69N0
〜〜〜〜〜〜〜
俺の食いかけのチキンが放置されたリビングに戻ってきた。チキンを机ギリギリに押しやり、おにぎりの乗った皿を真ん中に載せた。
小皿を持ってきて、まだ辛うじて冷めてないチキンの半分を薫に分けてやる。
「いいの?せんせー」
13:名無しNIPPER[sage saga]
2017/06/26(月) 19:33:25.72 ID:sKp9/69N0
途端に違和感を覚えた。
形の整ったおにぎり、薫の握ったものだが、これがやたらに冷たい。
まるでずっと外に置いておいたような冷たさだ。
「ん、やっぱ暖房切ると冷めるのも早いなぁ」
14:名無しNIPPER[sage saga]
2017/06/26(月) 19:33:55.51 ID:sKp9/69N0
〜〜〜〜〜〜
飯を食いながら、俺たちはいろんな話をした。
他のアイドルのこと、ちひろさんのこと、後から来たプロデューサーのこと……
俺の止まっていた時間が、ゆっくりと動き出すようだった。
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