597: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/05/13(日) 21:55:55.88 ID:HRQM2WMiO
座席に正座するように膝をついていたアナスタシアは、これまでの経緯をどうやって説明すればいいのかさっぱりわからないでいた。
高架線ではトラックが相変わらず行き来していたし、始発電車も動き出している。窓の外に眼をやれば、踏み切りの色、黄色と黒の縞模様が淡くなった薄闇のなかに浮かんでいるのが見える。ランプが赤く光ると、周囲の薄闇は青みがかっているように見えた。
598: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/05/13(日) 21:57:15.64 ID:HRQM2WMiO
いくつかの案を提示する前にアナスタシアは最初のひとつに飛びついた。その性急さが永井には考え無しにみえ、勝手に困ってろといわんばかりにまた眼を閉じて二度寝した。電話口の向こうでは、当然プロデューサーが事態を把握しようと質問攻めをはじめるが、見切り発車の発言に首を絞められたアナスタシアは返答に窮している。
中野が首をのばしてアナスタシアをうかがっている。中野は永井の肩をこづいて起こそうとするが腕を払いのけられる。
599: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/05/13(日) 21:58:27.69 ID:HRQM2WMiO
得々とした中野の語りにアナスタシアは眼を見張っていた。それはプロデューサーも同じで、ここまで話を聞いたときにはもう中野のペースにはまっていた。
打ち解けた感じのする通話が続いたと思ったら、中野がスマートフォンをアナスタシアに返してきた。
600: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/05/13(日) 21:59:41.72 ID:HRQM2WMiO
アナスタシア「プロデューサー……その、ミナミはどうしてますか?」
いちばんの心配ごとを口にした。口にした途端、自分の言葉にうぬぼれが滲んでいないか不安になった。
601: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/05/13(日) 22:01:22.24 ID:HRQM2WMiO
武内P『それは……あとで話したほうがいいでしょう』
プロデューサーは苦しげに言葉を濁して通話をおえた。
602: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/05/13(日) 22:05:08.82 ID:HRQM2WMiO
中野「あそこに食堂があるぜ」
言いながら中野は顎をしゃくって前方にふたりの視線をうながした。張り紙がしてある古びれたサッシの引き戸、ひさしのうえに掲げられた年月に晒されくたびれた白地の看板には色褪せた赤い字で食堂の名称が書かれている。ひと気のない観光地の路地にひっそりとたたずむ商品替えもしたことないようなみやげ物屋、そういう印象を与える食堂だった。
603: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/05/13(日) 22:07:03.17 ID:HRQM2WMiO
アナスタシア「アーニャは納豆にします」
中野「日本人だなあ」
604: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/05/13(日) 22:09:00.45 ID:HRQM2WMiO
そこだけは何時になってもずっと暗い食堂と隣家のあいだの狭い路地というか隙間から猫が一匹飛び出てきた。猫は着地すると、その猫は白と黒のぶち猫で右眼のまわりの黒い模様が眼帯みたいに見えた。ぶち猫は育ちすぎて鉢植えから地面まで伸びた葉先が鋭尖頭の葉っぱの下を背中を掻くようにして歩き、ふと白い方の眼を永井にとめると腰を下ろし頭をあげ、ぱちくりと両眼をひらいた。
猫の行動をみていたアナスタシアはしゃがんで、できるだけ猫とおなじ視線になろうとした。
605: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/05/13(日) 22:10:11.57 ID:HRQM2WMiO
アナスタシア「遊びたがってます」
中野「かまってやれよ、永井」
606: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/05/13(日) 22:11:55.27 ID:HRQM2WMiO
食堂の引き戸がガラガラと音をたてながら開かれ、なかから開店準備をしにきた六十代くらいの女性が出てきた。丈の長い襟元の弛んだTシャツを着ていた。猫は女性を見たとたん、一目散に逃げていった。中野が女性にすかさず話しかけ、店内に案内してもらう。
朝食のメニューは白米にごぼうの味噌汁、ふっくらした焼鮭にきのこと卵の炒め物、そして三人が頼んだサービスの納豆はじゃこがまぶされたじゃこ納豆だった。飲み物の緑茶はぬるかった。
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