600: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/05/13(日) 21:59:41.72 ID:HRQM2WMiO
アナスタシア「プロデューサー……その、ミナミはどうしてますか?」
いちばんの心配ごとを口にした。口にした途端、自分の言葉にうぬぼれが滲んでいないか不安になった。
永井と出会ってから、アナスタシアの心中に、じつは美波のことをよく理解できていなかったのではないかという思いが去来していた。亜人だと発覚するまで、美波の弟の顔も名前もアナスタシアは知らなかった。妹のほうは名前も知っていてスマートフォンのカメラで撮影した美波とのツーショット写真や美波の歌を照れくさそうに唄う様子を撮影した動画(美波が吹き替えたのではないかと思うほど、妹の声は姉にそっくりだった)を見せてもらったことがあったが、重い病気でいまも入院生活を余儀なくされているとは知らなかった。
アナスタシアが話してきたほどに、美波は家族のことを話さなかった。
それは話さないという意志的な選択ではなく、話しがたさ、困難さのためだった。未解消の家庭事情から発生する困難さは、言語表象を不可能に近づけるし、話すことが可能だとして、そもそも人に話すような事柄ではない。
一連の報道によって美波の家族の歴史を知ったアナスタシアもそのことを理解できた。しかし、それでもわたしには、という思いが拭いきれないのも事実だった。
プロデューサーはアナスタシアの不安に気づいていないようだった。プロデューサーは別のことに気をとられ、ほのかな陰りに滲んだアナスタシアの声のニュアンスに気づくことはなかった。
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