430: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 20:30:40.75 ID:4fkctst+O
佐藤は文章を目で流しつつ、ページをめくる。章の終わり近く、四二〇ページで佐藤は手を止め、そのページの文章をじっくり読む。
「これを聞いてるなら、二〇三九便の絶対に破壊されないブラックボックスに耳を傾けているなら、この飛行機が垂直降下を終えた場所に行き、残骸を見渡してみてくれ。破片とクレーターを見れば、僕がパイロットの資格を持っていないことがわかるはずだ。これを聞いてるなら、僕が死んだことがわかるはずだ。」
431: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 20:32:18.68 ID:4fkctst+O
ーー午後二時六分。
高森藍子と日野茜はいつもより張りつめた感じで元気を装って歩く本田未央のとなりをすこしためらいながらも調子をあわせてついていっていた。ポジティブパッションの三人は、清涼飲料水の商品宣伝のため、撮影許可を取った学校を走り回り、きらきらと光を受ける飲料水を喉に流し込んだ。撮影は予定通りに終わり、三人は夏服から私服に着替え、いまはプロダクションへの帰路を歩いていた。
432: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 20:33:58.59 ID:4fkctst+O
その声には憂いの色が滲んでいて、茜の溌剌さと自分のそれを比較したとき、後者の方にふがいなさを感じでいるような言い方だった。未央の表情にほころびができるのを見た藍子は、ついに胸の内に抱えていた思いを口にした。
藍子「未央ちゃん、無理してませんか?」
433: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 20:35:44.70 ID:4fkctst+O
未央はすこし俯いて黙っていたが、ひた隠そうとした胸中を友人二人に言い当てられたことに動揺していて、その内面が唇に現れていた。喉につっかえる言葉をなんとか口にしようと唇はわずかに開くが、すぐに閉じてしまう。藍子も茜も足を止めて未央を見守っている。やがて未央の口がちゃんと開き、迷いがちに言葉を口にした。
未央「あのドリンクさ……作ってるの、グラント製薬なんだよね」
434: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 20:36:57.82 ID:4fkctst+O
藍子「なんでしょう?」
茜「お祭りですかね?」
435: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 20:42:43.22 ID:4fkctst+O
ーー午後二時三十三分から三十九分。
高度一万フィート。そろそろベルト着用サインがオフになるというとき、佐藤が突然席をたった。佐藤は紙袋を手に通路をどんどん進んだ。
436: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 20:43:54.21 ID:4fkctst+O
客室乗務員は耳障りな高音にふたたび振り返った。耳にした高音からすぐさま連想したのはホイールカッターの回転音だったが、その連想が正しかったことを客室乗務員はその目で確認することとなった。
コックピットと客室を隔てる扉から火花が散っていた。回転刃の高音は不快に変化し、硬い金属を削りとっている。はじめは困惑しているばかりだった乗務員の気持ちに、次第に焦燥感が沸き起こり、彼女はベルトに手をかけた。何度となく扱ってきた座席ベルトに指がもつれ、それが余計に焦燥を生んだ。
437: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 20:45:17.16 ID:4fkctst+O
ーー午後二時三十九分。
ゲン「手ぇー、震えてんじゃん」
438: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 20:48:09.99 ID:4fkctst+O
ーー午後二時四十分から五十五分。
コックピットに侵入した佐藤はまず機長の顔を左手で押さえ込み、右手に持ったネイルガンを喉元に押し付け、十秒ほどトリガーを引き続け機長を絶命させた。その様子を見ていた副操縦士は両腕を突き出し、狂ったようにバタバタさせた。佐藤は動き回る副操縦士の両手首をまるで空中にいる蝿を捕らえるかのように片手で押さえ込むと、ぐいっと引っ張り腕を延びきらせ、顔を剥き出しにした。
439: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 20:49:32.13 ID:4fkctst+O
副操縦士のヘッドセットから航空管制官の声が聞こえる。マイクが拾ったコックピット内の叫び声と航空路からの逸脱について、状況の説明を求めている。ーー……便、航路を外れている。さっきの叫び声のようなものは? コックピット内は現在どのような状況だ? ーー管制官は何度も何度も繰り返し問いかけ続ける。
進路を変更した旅客機がしばらく飛行していると、コックピットから見える景色が海上から港へと変化する。停泊中の大型船や広大な空間にまたがるコンテナターミナルの上を通過し、旅客機は街へと接近していく。
440: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 20:50:18.14 ID:4fkctst+O
ーー午後二時五十七分。
奥山「ああ……本当にやっちゃうんだ」
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