323: ◆6QfWz14LJM[saga]
2016/03/11(金) 00:54:17.84 ID:0GQMf/Jmo
◇
眠れない。
明朝の決戦に備え、寝ずの番を”神機兵”に任せた仲間達は、静かに寝息を立てている。
私もその例に漏れず、休息を取らないといけないんだけど、どうにも落ち着けずにいた。
324: ◆6QfWz14LJM[saga]
2016/03/11(金) 00:55:59.32 ID:0GQMf/Jmo
「く……っ」
薄く雲がかかった、月の下。
音の主は、出入り口から少し離れた岩場にいた。
325: ◆6QfWz14LJM[saga]
2016/03/11(金) 00:56:58.22 ID:0GQMf/Jmo
明確な違和感を持ったのは、ジュリウスと別れた時だった。
彼が怒りの中で私に掴みかからなかったのも、直接私の手に触れずにディスクを渡したのも。
今考えれば、接触感染の可能性が極めて高い、”黒蛛病”の伝染を防ぐための手立てだったのだろう。
……そうであって欲しくは、なかったけど。
326: ◆6QfWz14LJM[saga]
2016/03/11(金) 00:58:20.39 ID:0GQMf/Jmo
「まあ、安静にしたところでどうにかなるものでもないし、好きにやらせてもらうさ」
「新たな世界の、その礎だけでも……築いておきたいからな」
「だから……お前達の元には、いられない」
327: ◆6QfWz14LJM[saga]
2016/03/11(金) 01:00:25.03 ID:0GQMf/Jmo
「……懲りないな、お前は」
少し間を置いて、ジュリウスが言葉を返す。
彼にしては珍しく、少し呆れ気味な調子だった。
328: ◆6QfWz14LJM[saga]
2016/03/11(金) 01:08:14.35 ID:0GQMf/Jmo
「……お前は、俺が求める力を持っていた」
「心を通わせ、得たつながりを力に"喚起"する……家族を求めていた俺にとって、まさしくうってつけじゃないか」
「……実際、お前には頼ってばかりいたしな」
329: ◆6QfWz14LJM[saga]
2016/03/11(金) 01:09:12.11 ID:0GQMf/Jmo
「……副隊長のお前が信頼関係を結んでいく横で、隊長の俺は何をしていた?」
「隊員を理解し、導くのが長である者の本分だというのに、俺は……」
「あいつらの抱えていたものを測れないどころか、己の都合を優先して逃げていただけじゃないか……!」
330: ◆6QfWz14LJM[saga]
2016/03/11(金) 01:10:44.16 ID:0GQMf/Jmo
「……そうだね、ありがとう」
本当の彼は、自分を許せない。
家族を求めながら深く知り合えず、助けられなかった自身を悔いている。
331: ◆6QfWz14LJM[saga]
2016/03/11(金) 01:16:50.73 ID:0GQMf/Jmo
私がフライアに所属した当初、その素性を知っていたのは、彼やラケル博士と、一部の人間のみ。
わざわざ言いふらしでもしなければ、秘匿するまでもない私の出自を、
ジュリウスは理由も聞かず、守り通してくれていた。
今でこそ、あまり思い出さなくなった程度には意識していない事柄だけど、
332: ◆6QfWz14LJM[saga]
2016/03/11(金) 01:18:02.94 ID:0GQMf/Jmo
「大事にしよう、守ろうと突っ張ってきて、求めた憧憬から最も遠ざかっていたのは、俺自身だったのかもしれないな……」
「……だが、もう後戻りも出来ない」
目を閉じ、息を吐いた彼は、再び私に向き直る。
333: ◆6QfWz14LJM[saga]
2016/03/11(金) 01:26:56.05 ID:0GQMf/Jmo
「……強いな、お前は……いや、強くなったと言うべきか」
「どちらにせよ、俺の目に狂いはなかったようだな」
ジュリウスの表情が、ふっと安らぐ。
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