2: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 00:28:28.92 ID:Sev9O2YP0
「お前、キノコじゃなかったのかァーーーッ!!!」
地響きのような重低音が鳴り響く。
ステージは小さく、観客は両手で数え切れる。
だがこの場所は、ドームの大舞台を彷彿とさせるほどの圧倒的な熱量を放っていた。
3: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 00:30:21.32 ID:Sev9O2YP0
「今日は来てくれてありがとう」
曲が終わり、彼女は客席に向かって語る。
歌唱中とは打って変わって荒々しさが抜け、年相応の可愛らしい声と風貌となった。
マイクを使っているからなんとか聞こえるが、もはや観客の声の方が大きい。
4: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 00:32:27.51 ID:Sev9O2YP0
「お疲れ、輝子!最高のライブだったな!」
「あ、ああ。ありがとう、プロデューサー」
楽屋に戻った輝子に男がタオルを手渡し、右手を挙げる。
5: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 00:33:24.27 ID:Sev9O2YP0
プロデューサーは驚きながら名刺をまじまじと見つめていると、その男は彼にぼそぼそと耳打ちした。
輝子はプロデューサーの顔を見て驚いた。
普段の彼は温厚で、注意をする事はあれど怒った顔など見た事ない。
なのにその時、彼はすごい怖い顔をして男を怒鳴った。
6: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 00:34:58.24 ID:Sev9O2YP0
それから数週間、輝子はいつものように日々を過ごした。
アイドルとしての仕事もいつも通りこなし、プロデューサーと遊んだりした。
その時、彼にほんの少し違和感のようなものがあった。
輝子と話していると、どこか遠い目をしたり、辛そうな顔を見せた。
だがそれは一瞬の事だったので輝子は気のせいだろうと思い、特に何かする事はなかった。
7: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 00:35:55.83 ID:Sev9O2YP0
ある日、いつものレッスン終わりにプロデューサーは輝子を呼び出した。
「なんだ?親友……」
プロデューサーに促され、向かいの席に座る。
8: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 00:36:45.98 ID:Sev9O2YP0
「お前のポテンシャルはこんなものじゃない。もっと資金力もコネクションもあるところに行けば
すぐトップアイドルになれる。俺が保証するよ」
親友は、自分を信じてこの話をしてくれた。
自分の為に、自分を送り出す話をつけてくれた。
9: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 00:37:21.94 ID:Sev9O2YP0
輝子は手渡された地図を眺め、指定された場所へ来た。
そこは新しいプロダクション。
「すごい…大きいな……」
10: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 00:40:36.86 ID:Sev9O2YP0
自分の事務所にやって来た彼女をじろじろと眺めると、吐き捨てるように呟いた。
「前の事務所ではどんな扱いだったかは知らねえが、ここでは俺の言う事に従え。分かったな?」
「あっ・・・は、はい」
11: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2022/06/06(月) 00:42:10.58 ID:Sev9O2YP0
「なんだ?嫌なら帰るか?」
半泣きの彼女を見た男は、小さく舌打ちをして問いかけた。
輝子は僅かに首を横に振る。
親友が自分の為に連れてきてくれたのだ。初日に帰れるわけもない。
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