52:名無しNIPPER[saga]
2022/04/12(火) 20:39:08.06 ID:7CFKnxlH0
その日は驟雨が酷かった。
篠突く氷雨が樫の木々に降りかかった、そういう雨音を、時おり、すぐ近くに鳴ったろう雷が真白に打ち消すのだった。
急き立つ我々が防風林を抜けると、小高い丘陵の頂点、厚い鼠色の雲を後景に、明治に公設されたような洋風の邸宅が一軒、孤立しており、そこが廣建イリナメラ庵なのだ、と崇高なる宣告者は言った。
そこは余りにも異国的で、妖しく、恐怖譚のくすんだ暗い挿絵に似ていた。ボルメテウスホワイトドラゴンは、これは不吉の相がある、と断じ、一人事情を知っていそうな崇高なる宣告者は、一人意地が悪い笑みを浮かべてあれこれ尋ねる蘭子を躱す。
初めに出迎えたのは大層なロートアイアンの門扉で、次に格子向かいから老紳士風の男が歩いて来た。召使であるらしい。彼は我々を庭内へ招き入れると、「崇高なる宣告者様よりお話は伺っております」と言った。
53:名無しNIPPER[saga]
2022/04/12(火) 20:55:24.71 ID:7CFKnxlH0
「信用ならないって……」
「悪評があると言っているのさ」
「俺がもといたのは天界で、そこでは当然苦患とは無縁だったんだが、ある日脳神経痛を訴えた者が出たんだ。これは明らかに妙だから、3人の機敏な人が天文庁に駆り出された。その内の一人が俺でね。
「さんざ殺されたよ。犯人はパンドラの鍵を弄った大罪人でね。無論開けるまでには至らなかったから復活は叶ったが、絶望の魔力で正体を隠してたのさ。だから逃げられた」
54:名無しNIPPER[sage]
2022/04/12(火) 21:10:28.92 ID:QQ3RKNYL0
自分でも何書いてるか分からなくなってきてるだろ
55:名無しNIPPER[saga]
2022/04/12(火) 21:22:24.92 ID:7CFKnxlH0
「そういうわけで、当時は随分と取りざたされたものだよ。なんせ三聖の全員が口をそろえたんだからね。でも髪の毛一本の証拠も見つからなかった。挙句の果ては黒を前提とした魔法捜査で確たるアリバイを掘り出す始末。だからブラスターブレードは無罪放免、三聖はその強権に危機感を抱かれ解散、今やブラスターブレードは教区長を務める大出世だ」
「へえ、そんなことが」
「あったんだよ」
「しかし今の言い分だと螻蛄の落ち度が分かりませんよ」
「え?」
56:名無しNIPPER[saga]
2022/04/12(火) 21:23:09.34 ID:7CFKnxlH0
訂正 ×螻蛄 〇ブラスターブレード
57:名無しNIPPER[saga]
2022/04/13(水) 11:45:09.96 ID:JSzS0ytI0
宣告者が何事かを言おうと口を開いた瞬間、喨喨たるノックの音が高く木魂する。
「なんです」
宣告者は心なし不機嫌な声色でドアを開けた。
「どうも」
そう言って部屋に入って来たのはイリナメラ庵のメイガス、イリナメラであった。加湿器のように色気が吹き立つ美女であった。豊満で肌理細やかな肢体を、ドレープのついたナイトドレスで装っている。
58:名無しNIPPER[saga]
2022/04/13(水) 11:48:46.71 ID:JSzS0ytI0
訂正 ×手を差し出した。色気が噴出した蘭子は 〇手を差し出すと、そういう性別を超脱した、ぞっとするほど整った肉体美に蘭子はドギマギさせられる。
59:名無しNIPPER[saga]
2022/04/13(水) 11:50:50.70 ID:JSzS0ytI0
安価>>60 蘭子はイリナメラに何をされる?
60:名無しNIPPER[saga]
2022/04/14(木) 14:31:44.71 ID:MGFedzGj0
蘭子がイリナメラに連れられてやってきたのは赤いビロードがかかった神秘的な部屋であった。薄暗かったので香炉の沈香が焚かれているのがよく見えた。部屋の中央ではあらゆる儀式に流用可能な円卓があり、これを囲むのは“サターンの椅子”のような黒檀で、あたかもここだけ近世ヨーロッパの王族の家であるかのようだった。
イリナメラがその一脚に座る。そして彼女は別の一脚に彼女の着席を促した。
蘭子は恐縮しながら腰を埋める。イリナメラが口を開いた。
61:名無しNIPPER[saga]
2022/04/15(金) 09:05:08.69 ID:9kzymQHQ0
その後、蘭子は多神教価値観とは趣を異にするキリスト教価値観と、それに依拠する秘教哲学、イリナメラ庵の教義について触れ、最後に初歩的な魔術儀式についての実践作法を教えた。
「すっごーい! これがイリナメラ錬金法なんだー!」
蘭子は4時間の学習を終え、与えられた自室に帰っていた。蘭子は風呂から上がり、肢体を緩やかなバスローブで覆い隠している。そういう血色のいい悩ましげな風体で、窓際に敷設された木曽檜のロッキングチェアに腰掛け子供のようにはしゃいでいる。彼女は真鍮の大釜を庵祖イリナメラから預かっており、これを使用してアルカナ生成の力量を流出させているのだった。
62:名無しNIPPER[saga]
2022/04/19(火) 17:56:15.70 ID:Bp+rozXx0
次の日、蘭子は一人の部屋で目を覚ました。
元から一人であった訳ではない。
確かに昨夜、おおよそ十時を回ったころ、蘭子は宣告者と閨を共にしたのである。
それがいない。
寝過ごしたのかも知れなかった。
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