【ミリマス】周防桃子『おとぎばなしで、きっと』
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5: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:26:21.45 ID:170ffVuV0
公演が始まる直前、舞台袖で待機しているとき、いつもより胸がどきどきした。
今のこの桃子を、ファンのみんなに見てもらえるんだ、って。
それから──スタッフさんの合図と同時に、桃子はステージに駆け出した。
たくさんのスポットライトを浴びて、たくさんの音と、ペンライトの光に包まれて──。
6: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:27:03.43 ID:170ffVuV0
閉じていた目を、ゆっくりと開けた。
そこにあったのは、照明の落とされた、誰もいない客席。
ステージ上の照明も、ぽつぽつとしか点いていなかった。
桃子が歩くたびにシューズが床に擦れて、その小さな音だけが、誰もいない舞台の上に響いてた。
7: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:27:35.10 ID:170ffVuV0
ステージの上で、小さく息を吐いた。
それから、何段かすぐ後ろにある階段を上がって、舞台の中段あたりに、そっと座った。
少しの間、そこで薄暗い客席を、ぼうっと見ていた。
8: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:28:15.68 ID:170ffVuV0
「──桃子、お疲れさま。こんなところに──」
「きゃあっ!」
9: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:28:48.87 ID:170ffVuV0
「えっと……お兄ちゃん。……今の、もしかして聞いてた……?」
それを聞くのは……ちょっとだけ怖かった。
10: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:29:41.19 ID:170ffVuV0
「隣、座っていいか?」
「……うん」
11: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:30:16.80 ID:170ffVuV0
「お兄ちゃん。……『不思議の国のアリス』って、原作だと、アリスが見た夢の中のお話なの」
物語の最後で、アリスは不思議な夢から目覚める。
その後、アリスはお姉さんに夢の中の冒険を無邪気に話すの。
12: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:30:44.11 ID:170ffVuV0
今回の公演の中で、アリスはたくさんの冒険をして、そこでたくさんの仲間たちと出会った。チェシャ猫さん、帽子屋さん、白うさぎさん──それぞれ、茜さん、千鶴さん、紬さん───と仲良くなって。
物語の最後では、お姉さん──真美さん──とも一緒に、みんなでお茶会をした。
ちょっぴり騒がしくて……でもそれが何故か心地よくて。本当に楽しかった。
だから、今は──。
13: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:31:38.61 ID:170ffVuV0
桃子は、何も喋らなかった。
……ううん、本当は喋れなかったんだとおもう。
これ以上、自分の心を上手く説明することができそうになかったから。
胸の中では、自分のいろんな気持ちが混ざり合って、ぐるぐる回ってた。
14: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:32:32.56 ID:170ffVuV0
ふと桃子がお兄ちゃんの方を見ると、そこで目が合った。
お兄ちゃんは、どこか優しい表情をしていたように見えた。
「……うん。きっと、それでいいんじゃないか?」
15: ◆Kg/mN/l4wC1M[saga]
2022/01/10(月) 19:33:07.48 ID:170ffVuV0
「うん……。お兄ちゃんの言ってること、今の桃子なら少しだけ分かる気がする」
──きっと、桃子も、夢の中にいていいんだよね。
アイドルになって、劇場のみんなとたくさん一緒にいて、気づいたことがある。
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