31:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 23:59:27.60 ID:YBAOIjLn0
「あれ?イツキさん笑ってます?」
彼女が言う。普段はアホ面晒してるだけなのに、こう言う所だけは無駄に察しが良い。なんて言うか人の気持ちを汲み取る能力に長けてるというか。
「笑ってない」
「隠さなくても大丈夫ですよ! 私はサイキッカーで全部お見通しですから!」
「……自販機で飲み物買ってくる」
32:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:00:01.84 ID:I9OmqLYR0
図書室から廊下へ出ると、そこは紫と赤色をぐちゃぐちゃに混ぜた絵の具みたいな色に染まっていた。窓から零れた光が廊下に反射している。
「おー」
思わず窓へ近づく。外はパレット色に染まっていた。一日を一塊にしたみたいな色の空。
「わぁ綺麗……ですね」
33:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:00:49.97 ID:I9OmqLYR0
その瞬間、世界が呼吸を止めたようにそんな風に思えた。
窓から射す夕日が、流れる風が、刹那の時が、全てが俺のために時間を止めてくれているのだと
この瞬間の世界には二人しか存在していないのだと、そんな事を思わせてくれた。
それは実際に測ってしまえば二秒だとか、一秒だとか、あるいはもっと短い時間だったのかもしれないとも思う。
34:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:01:33.11 ID:I9OmqLYR0
グラウンドから吹いた熱い風は放課後のどこか涼しい雰囲気に紛れて、サイズの合わない俺の夏服だとか、
彼女によく似合う白いブラウスだとか、思春期の言いようのない漠然とした不安だとか
そう言うあの頃の俺に見えてた、広くて狭い世界の在り方の全てを通り過ぎて向こう側に消えて行った。
蝉の残響が聞こえる。
35:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:02:51.25 ID:I9OmqLYR0
5.七月
その日、自販機で飲み物は何を買ったんだとか、
別れ際に彼女と何を話したんだとか
そういう詳しい事はイマイチ俺自身にも覚えていなかったけれど
36:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:03:45.95 ID:I9OmqLYR0
「イツキさん顔色が悪いですけど大丈夫ですか?」
彼女がこちらを心配したような顔で覗き込んでくる。
「誰のせいでこうなってると思ってんだよ」
とは、そんな事は口が裂けても言えないし、そもそもそんな事を言う勇気は俺にはハナから備わっていない。
37:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:04:23.81 ID:I9OmqLYR0
「ほら真ん中のこの五円玉をよく見てください……イツキさんはだんだん眠くなーる……だんだん眠くなーる」
彼女は五円玉振り子を小刻みに揺すってから馬鹿の一つ覚えみたいに「眠くなーる」と繰り返している。
恐らくこの感じだと普通に眠い人も彼女の声が気にかかって眠れないのではないだろうか。
「眠くなーる……眠くなーる……眠くな……ん……」
38:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:05:40.62 ID:I9OmqLYR0
「なぁユッコ、お前が寝てどうする」
「……はっ……私としたことが!」
適当に声をかけて彼女を起こす。
彼女の寝顔を見続けるのはどこか犯罪じみて思えたし、俺の心臓が持ちそうにないと思えたから。
39:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:06:44.59 ID:I9OmqLYR0
「なぁユッコって超能力のこと信じてる?」
俺がその気まずさを打開しようと彼女に振った言葉はそんな感じだったと思う。
急に何言ってるんだコイツって思われたと思う。
何となく文字足らずになってしまって言葉を付け加える。
40:名無しNIPPER
2021/06/24(木) 00:07:13.63 ID:I9OmqLYR0
「ふふっ」
慌てふためく俺の姿が面白かったのか彼女は少しはにかんで笑った。
「はい!如何にも私はサイキックを信じています!」
「サイキックだけじゃなくて、UFOだとか宇宙人だとかネッシーだとか……ビックフットだとか!」
「そういう物も全部!」
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