32:名無しNIPPER[saga]
2021/05/16(日) 20:45:14.22 ID:emsexCaj0
レース当日。
タキオンのコンディションは最悪だった。
頭が痛くて、身体が重くて、脚が痛くて、
まともに走れるとは思えない状態だった。
33:名無しNIPPER[saga]
2021/05/16(日) 20:46:35.35 ID:emsexCaj0
どうして私は走るんだったっけ?
思い出せない。もう忘れてしまった。大事な事だったのに。
どうして大事だったのだろう?
34:名無しNIPPER[saga]
2021/05/16(日) 20:48:11.23 ID:emsexCaj0
…真っ白な世界から引き戻される。
前には、誰も存在しなかった。
会場の異様などよめきと歓声が、耳に入ってきた。
35:名無しNIPPER[saga]
2021/05/16(日) 20:49:26.64 ID:emsexCaj0
病院に辿り着いたタキオンは、病室の前で、少し立ち止まった。
いつものように、いつもの自分を思い出してから、無造作に扉を開ける。
「やあ、トレーナー君。見てくれていたかな?」
36:名無しNIPPER[saga]
2021/05/16(日) 20:50:42.10 ID:emsexCaj0
備え付けのテレビに、今日のレースの様子が映っていた。
「録画してたの。それで、何回か見直してた」
「…ふぅン?何か気になる点でも?」
37:名無しNIPPER[saga]
2021/05/16(日) 20:52:14.33 ID:emsexCaj0
「どうしたんだい。ちゃんと約束を果たしてきたんだよ?君のことだから、もっと興奮してくれると思ったのに。ああ、病人が興奮したらまずいか。なあ?」
「…」
トレーナーは画面上のタキオンを眩しそうに見つめながら、ぽつりと、
38:名無しNIPPER[saga]
2021/05/16(日) 20:53:24.34 ID:emsexCaj0
かすれて、絞り出すような声だった。
トレーナーの眼から、涙がボロボロ零れた。
それを拭って、悔しそうに、唇を噛みしめて、俯いた。
それからトレーナーは、しゃっくり混じりに、恥じ入るように呟いた。
39:名無しNIPPER[saga]
2021/05/16(日) 20:54:29.45 ID:emsexCaj0
どうして泣くんだ?
どうして笑わないんだ?
どうして褒めてくれないんだ?
40:名無しNIPPER[saga]
2021/05/16(日) 20:56:26.73 ID:emsexCaj0
気がついたら、力づくで、トレーナーをベッドに押し倒していた。
両手を抑えられて、驚いた表情をしているトレーナーの、
涙で濡れて、見開いた目が、間近にあった。
タキオンは、何かを言おうとして、少し、喉でつっかえた。
41:名無しNIPPER[saga]
2021/05/16(日) 20:57:42.70 ID:emsexCaj0
タキオンは、研究も、走ることも、やめた。
最後まで、トレーナーの側にずっといることを選んだ。
ある日、トレーナーの容態が急変して、治療の甲斐なく、そのまま亡くなった。
42:名無しNIPPER[saga]
2021/05/16(日) 20:59:09.49 ID:emsexCaj0
数年後、タキオンは理事長の計らいで学園の教師になった。
タキオンは、真面目に教師活動を取り組んだ。
生徒に知識を叩き込んで、時には生徒の悩みに力を貸す。
生徒から、面白い先生だと人気になった。
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