27: ◆CItYBDS.l2[saga]
2021/02/11(木) 09:29:17.67 ID:oNIrsuw50
「それで―――なんだって。つまり奴らは馬鹿だってことか?」
「侮ってはいかんぞ、剣の腕、個の強さに関して、魔物は人間より遥かに上だ。しかし、奴らは集団行動がとれん。魔王も、それがわかっているからこそ奴らを陣形もとらせず城下の大平原にまとめて置いているのだろう」
28: ◆CItYBDS.l2[saga]
2021/02/11(木) 09:29:45.21 ID:oNIrsuw50
背から放たれた祖母の悪態に、胸のあたりがカーっと熱くなる。
昔からそうだ。俺に限らず、我が一門は誰一人として臆病者と呼ばれることをよしとしない。その言葉を、撤回させるためならば一族皆、平気で命を張るだろう。身体中を巡っている勇者の奔流が、まるで呪いのようにそうさせるのだ。
だからこそ、例え一族同士で仲違いを起こそうと、その言葉だけは決して使われることはない。使ってはならない禁句なのだ。だがしかし、祖母は敢えてその禁を破った。
29:今日はここまでです ◆CItYBDS.l2[saga]
2021/02/11(木) 09:30:12.99 ID:oNIrsuw50
魔物どもの不在で、俺達は束の間の平穏に息を整えることができた。体と刀にまとわりついた魔物どもの血肉を剥がし、大叔父の指揮の下魔王を探しはじめる。
非常に大きな城だというのに、魔王の所在は思いもよらず容易く見つかった。
城門から一直線に、城の中央へと通ずる廊下を進んだ果て。今、我らの前に、荘厳な装飾が施された巨大な扉が立ちふさがる。
30: ◆CItYBDS.l2[saga]
2021/02/13(土) 09:53:22.08 ID:ewOe4rJE0
◆
冷気が、全身を突き抜けた。
極北の大地で鍛えぬいた肉体が、そのあまりの寒さに悲鳴をあげている。
31: ◆CItYBDS.l2[saga]
2021/02/13(土) 09:53:49.19 ID:ewOe4rJE0
命を奪いに殺到した我らを前に、なんと傲岸不遜なことか。
我らなど、とるに足らないということか。湧き上がる怒りに、凍った手足がじわりと溶けていく。
一門の全てが、同様の怒りを感じているのだろう。みな、一歩また一歩と魔王へと歩み寄る。
32: ◆CItYBDS.l2[saga]
2021/02/13(土) 09:54:15.68 ID:ewOe4rJE0
厚く、鈍い声が広間に響くと同時に、闇の瘴気が我ら勇者一門にのしかかる。
俺は、その重さに思わず膝をついてしまう。俺だけではない、一門の皆が、大叔父上ですら立っているだけで精いっぱいといった面持ちだ。
玉座の間に入って以来、感じていた冷たいプレッシャーの比ではない。
33: ◆CItYBDS.l2[saga]
2021/02/13(土) 09:54:42.72 ID:ewOe4rJE0
指先一つ動かせない。
柄を握る気力すら湧かない。
ああ、我らはここに臆病者として果てるのだ。
34: ◆CItYBDS.l2[saga]
2021/02/13(土) 09:55:09.24 ID:ewOe4rJE0
「おお、ばば様が剣を抜かれた」「よもや」「なんという勇気」「なんという胆力」
俄かに、声が上がる。
35: ◆CItYBDS.l2[saga]
2021/02/13(土) 09:55:36.78 ID:ewOe4rJE0
「魔王の首は、俺がもらい受ける!」
大叔父上が、ひときわ大きな声をあげ一息に魔王へと切りかかった。
必殺の上段構え。一切の防御を捨てた、海すら割る渾身の一撃。
36: ◆CItYBDS.l2[saga]
2021/02/13(土) 09:56:04.08 ID:ewOe4rJE0
大叔父上は、倒れかかる供周りを手で押しのけ再びの大上段に構える。
あくまで一刀にかける、大叔父上のその頑なな姿に、魔王の口角が徐々に上がっていき、遂には歯を見せ声をあげて呵々大笑してみせた。
「よいぞ、人間」
52Res/33.98 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20