白雪千夜「アリババと四十人の盗賊?」
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95:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:12:52.55 ID:tRJaplXx0
 段々、追い詰められているような気持ちがした。眼前の少女の手綱をとろうとして、その明るさの為に、余計にボロボロになっていく。心が狭くなったのか? 自分が悪いのか?
「次はもっと元気に動き回ってみますね。そしたらきっとポーズも……」
「冗談じゃない」

 しまった、まただ。息苦しい。耐えられない。最近すぐ、かっとなる――


96:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:13:22.31 ID:tRJaplXx0
「千夜さん……」
 頼子が止めようとしてるのが分かった。構わず都に詰め寄る。
「自分の好きに動くのも結構ですが、それで割りを食うのはこちらだ」

 きょとん、とした顔がまだ憎い。もっと恐がれ――
以下略 AAS



97:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:13:49.74 ID:tRJaplXx0
「はっきり言って迷――」
「白雪さん」
 ――


98:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:14:19.54 ID:tRJaplXx0
 演出家の一言が、千夜を止めた。そうさせるだけの、静かで優しく、厳しい声だった。
 先生はそのまま、千夜の顔を覗き込む。朗らかさは忘れず、しかし眼で笑うこともせず、問う。
「白雪さんはさ、誰に怒りたいのかな?」

 答えられず、沈黙したままになる。見つめ返すのが精一杯だった。
以下略 AAS



99:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:15:18.38 ID:tRJaplXx0
 建物を囲む打ちっぱなしの塀を隔てて、都会の喧騒を耳にしていた。車が行き交い、忙しない足音が響いたり止まったり、察するに今、信号が赤になったところだ。風が街路樹を揺らす。時々鳥の声もする。自販機で買ったミルクティーは、開ける気にならずジャージのポケットだ。

 稽古は上手くいかない。考えるべきことも手につかない。現実は理想とやらと乖離して、問題ばかりが山積みらしい。それでもちょっと頭を冷やしたら、また戻っていかなければならない。

 歩いていても、コンクリートは代わり映えがしない。ヒビとかシミとか、もっと面白い形になってくれればいいのに、と思う。ぼうっと頭を動かしていると、土の色。煉瓦に囲まれたそこに、名前は知らないがピンクの花と、黄緑の大きい葉。
以下略 AAS



100:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:15:48.32 ID:tRJaplXx0
 これに驚いて、熱中症でもやって倒れたか、と反射的に駆け寄った、……のが大きな間違いだった。しなやかな体躯に、ピンクを混ぜたような紫の髪、鼻孔をくすぐる甘くて辛い、刺々しくも茫洋な香り――

 一ノ瀬志希は、千夜に気付いたらしく「ん」と発し、顔も向けず続けた。

「そこでな〜にをしてるのかにゃ〜?」
以下略 AAS



101:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:16:18.72 ID:tRJaplXx0
 鋭く指摘してやると、彼女はこちらに向き直った。悪戯っぽい笑顔は、本人の伸びやかな四肢からすれば違和感を覚える程に子供っぽかった。
「今日ねー、朝起きたの。十二時。そしたらワオ、お稽古だってゆーじゃん?」
「はい」
「だからお花嗅いでた。……お鼻で」
 ――論理学の教授に中指でも突き立てようかという回答だ。
以下略 AAS



102:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:16:45.28 ID:tRJaplXx0
 そろそろだ、と思った。ほんの徳義心、社会的道義から彼女を看過するわけにいかなかったのは、千夜が咄嗟に歩み寄り、杞憂をしたのだと分かり後悔の念を覚えた、その瞬間までだったのだから。
「あの」と切り出す。「貴女の具合が悪いのでなければ、お暇します」

「逃げるの?」


103:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:17:12.94 ID:tRJaplXx0
 言い放つ。
 鋭く刺さった。志希の口調は強くもなく、眼もくりくりとしていたが、……
 逃げるの、ときたものだ。寸鉄千夜を刺した。その場に縛り付けられて、詰まりながら言葉を返す。

「何の話です」
以下略 AAS



104:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:17:39.83 ID:tRJaplXx0
 志希はそうして千夜を刺激し、反応を観測すべくか身体を傾け、其方此方から視線を投げるのだった。時折鼻を動かし、蠱惑的な笑みを浮かべながら。なんとも落ち着かない。
「ちょっと休憩を頂いたのですよ。それだけです。あの、いくら私の表情が乏しいとしても、そんな風にじろじろ見られるのは心外なのですが」
「にゃは? ウソついたね」
「嘘? 嘘など」



105:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:19:30.79 ID:tRJaplXx0
「ばれてないって? 成る程つまり」志希は大仰な身振りを交えて、「あたしという人間を知らないなー? オーケイ、じゃあもう一度だけ説明しよう! あたしの名前は一ノ瀬志希。こう見えて――つまり可憐にして高貴、蝶よ花よの箱入りお嬢様に見えて」――見えますね、まさしく!「――その実はアメリカ留学のギフテッド、更に飛び級のジーニアス! のみならず四十人の盗賊を束ねる決死部隊の長にして天使のカオした破滅愛好家、遠からん者には喜劇、近く寄り見ば悲劇、否認を受け持つ守護聖人、イワテの聖シキー!
 あたしはたった今、キミという背徳の仔羊に与えられた森厳なる恩恵を奪うのだ――汝、鶏が鳴く前も鳴いた後も否認する能わざるものなり。呪文もいっとこっか?
 《イフタフ・ヤー・シムシム》♪」



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