98:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 01:14:19.54 ID:tRJaplXx0
演出家の一言が、千夜を止めた。そうさせるだけの、静かで優しく、厳しい声だった。
先生はそのまま、千夜の顔を覗き込む。朗らかさは忘れず、しかし眼で笑うこともせず、問う。
「白雪さんはさ、誰に怒りたいのかな?」
答えられず、沈黙したままになる。見つめ返すのが精一杯だった。
「ヤダなぁ、坊さんみたいだ」照れ臭そうに頭を掻きながら、先生は笑った。「よし、白雪さん、休憩にする? 外の空気吸ってきてもいいよ」
千夜は頷いて、さっさと振り返って扉へ向かった。
誰に怒る? 都に? 違う。違う筈だ。自分の考えを実現することに固執していただけだ。周りの、安斎都の考えと折り合わせることもせず。相手もアイドルで、自分の見せ方には考えがあるのだという事を気にもせず。認めないから気付かない。何が調整だ。我がままに相手を振り回そうとして、勝手に疲れていたのはこっちだ。
ぼんやりした頭を抱えて、足元ばかり見ていたのに、何度か躓いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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