白雪千夜「アリババと四十人の盗賊?」
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37:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:20:16.99 ID:6NLLeJ5C0
 心臓が止まったかと思った。その後の全身の血が逆流したような感覚も、千夜の驚愕を表すものだった――私は何を言ったっけ?

「あはっ、可愛い♪ 驚いた?」
「その…… 何故?」
「分かったかって? 千夜ちゃんの事ならぜーんぶお見通しなんだよ?」
以下略 AAS



38:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:20:47.12 ID:6NLLeJ5C0
「左の手の平、怪我してるよね。隠してるけど、握り方とか向け方とか、千夜ちゃんにしては珍しいよ。だから気にしてたら、手袋が切れてるのも見えちゃった。取って。……ほら、やっぱり絆創膏。消毒は? うん、さすが千夜ちゃん。
 じゃあ何で怪我したかっていったら、私が朝、千夜ちゃんのコーヒー褒めたのが原因だと思うの。《魔法使いさんにも淹れてあげたら?》って。ジャズベも持ってったもんね。あはっ、可愛い。それで魔法使いさんのカップを持って来たんだね。それをどうしてか、割っちゃった。
 それで足や脛じゃなく手、それも指じゃなくて手の平を、しかも利き手じゃない方を切ったのは、単に当たったとか、触った以上の事があったのね。きっと、それが魔法使いさんにとって大事なカップだったから。千夜ちゃんは優しいから、形だけでも戻そうとして拾い集めてみたんだね。それで優しさの証拠がここに。うん、とっても綺麗だよ。ここまでが、千夜ちゃんの左手がお喋りしてくれたこと♪

 魔法使いさんも優しいから、カップなんかいいよって言ったと思うけど、千夜ちゃんは気が済まないよね。何処で買ったかまで聞き出した——少しでも、魔法使いさんの大切≠ノ近い物を贈る為に。単に良い物を買うなら、東京にはいくらでも近場のお店があるのに、渋谷でも銀座でもなくお台場なのはそういうわけ。
以下略 AAS



39:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:21:15.24 ID:6NLLeJ5C0
 ちとせは紅く目を細める。千夜は舌を巻いた――また変な遊びを。
 大筋ではあるが、仕草だの二言三言からこうまで見透かされては敵わない。脱帽です、とお辞儀した。

「おっしゃる通りです」
「ね、千夜ちゃんのことなら何でもお見通しなんだから」
以下略 AAS



40:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:21:54.57 ID:6NLLeJ5C0
 言いながら、ちとせの宝石のような瞳は、一点を注視していた。その表情に妖しいものが宿る。
 視線が射る先、ベンチに腰掛け、鷺沢文香が本を読んでいた。青い装丁を両手一杯に開いている。ちとせは、すすす、と早足で寄って、
「文香ちゃん、こんにちは」

 朗らかな挨拶を意にも介さないようで、文香は依然、活字へ目を落としたままだった。ちとせ嬢は焦ったそうにベンチの裏側まで回って、耳を喰むかという近さでまた「こんにちは」。餌食の首筋を、華美な五指で撫でながら。
以下略 AAS



41:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:28:35.29 ID:6NLLeJ5C0
「こんにちは」と再三ちとせ、ベンチの背もたれに両肘ついて。
「こ…… こんにちは」
「驚かせてすみませんでした。どうぞ」本を差し出す。
「いえ…… はい、ありがとうございます」受け取る。
「読書してたんだ? 推理はお好き?」
以下略 AAS



42:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:29:06.32 ID:6NLLeJ5C0
 彼女は深い思索の視線と暫時の逡巡を表した後、
「マグカップ…… でしょうか。……プロデューサーさんの」
「あはっ、名探偵♪ なんでかな?」
「今の時間からの買い物…… というのは、急ぎの用を暗示するものです。買い求めるのは、明日にでも使う物…… 千夜さんの傷が傍証となるのなら、それは今日使う物でもあったかと。強引な帰納ですが、日常使う物、それが壊れ、早急に利便を回復しなければならないのだと、ひとまず仮定しました。

以下略 AAS



43:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:29:33.43 ID:6NLLeJ5C0
 千夜は透徹した推理に瞠目したり狼狽しながら、どうもこいつは二枚舌らしい、と自分の左手を眺めまわした。文香が静かに語り終えるのを待ってから、ちとせは声を弾ませる。
「すごいすごい。うん、『千夜ちゃん学』は引き分けだね♪」
 楽しそうな彼女の、そのなんだかよく分からない言葉に、千夜は思わず笑いをこぼした。
「そんなものについては、誰もお嬢様には敵いませんよ」
「『魔法使い学』はどうかな?」
以下略 AAS



44:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:30:10.74 ID:6NLLeJ5C0
 あっけらかん、言い放ったちとせは、しかしその眼を油断なく光らせた。
 対する文香も、また、あっけらかん、の体だった。
「仰ることが、よく……」
「誤魔化すのはだーめっ。それじゃあ私たち、楽しめない」
「お嬢様、私にも分かりませんよ」
以下略 AAS



45:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:30:47.52 ID:6NLLeJ5C0
「お嬢様、そろそろ」
「ああん、細かいのは嫌いだな。ねえ文香ちゃん。魔法使いさんが文香ちゃんのものになんかならなくたって、今の関係でさえいられれば、幸せだね。だけど、もしあの人が誰か他のヒトのものになったら? 私のものに? その誰かさんが、文香ちゃんの側にいられないよう、あの人を奪っていったら? 美しいものは永遠の喜びでも、人の想いは風なんだよ」

 文香が顔を背けたり、逆に見つめ返そうとする度、ちとせは踊るように移動した。必ず彼女を隣から覗き込み、視線を惑わせる。
「お嬢様、もう行かないと暗くなります」
以下略 AAS



46:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:31:14.62 ID:6NLLeJ5C0
「文香さん、…… こういうお戯れなので、どうかお気に……」
「あはっ、心配ないか。魔法使いさんだもんね? きっとカリフみたいにハーレムを作るよね。あの子もこの子も侍らせて♪ うん、いいよ。あの人が相談して来たら、文香ちゃんを二号に認めてあ――」

「プロデューサーさんは……!」



47:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:31:47.80 ID:6NLLeJ5C0
 千夜の驚いたことに、彼女はなかなか鋭い語気で挑発に乗った。ちとせもたじろいだ。

 自分自身の怒りにさえ怯えるように、文香は微かに震えているらしかった。
「……プロデューサーさんは、そのような方ではありません。必ず、誠実に…… その、我々の知る誠実さというものに則って…… 一人を、お選びになります」

以下略 AAS



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