40:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:21:54.57 ID:6NLLeJ5C0
言いながら、ちとせの宝石のような瞳は、一点を注視していた。その表情に妖しいものが宿る。
視線が射る先、ベンチに腰掛け、鷺沢文香が本を読んでいた。青い装丁を両手一杯に開いている。ちとせは、すすす、と早足で寄って、
「文香ちゃん、こんにちは」
朗らかな挨拶を意にも介さないようで、文香は依然、活字へ目を落としたままだった。ちとせ嬢は焦ったそうにベンチの裏側まで回って、耳を喰むかという近さでまた「こんにちは」。餌食の首筋を、華美な五指で撫でながら。
流石にキャッと叫んで、文香は跳ね上がる。持ち主に突き飛ばされ、バサバサはためき宙に舞うハードカバーを受け止めるのが千夜の仕事になった。頁を折らぬよう気を張る――よし、大事無し。
雪のような頬を上気させ、文香はちとせと対峙した。前髪は慌てた為に乱れたようで、その間から覗く目はどうも恨めしげに感じられた。
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