【ミリマス】ジュリアがメシマズ克服をPに思い知らせる話
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あんたを驚かせに来た 1/6
[sage]
2020/11/04(水) 00:02:27.45 ID:pA5LqmH70
ある夏の日のことだった。二階の廊下の窓から見える、高校の中庭で、昼食を一緒にとる仲睦まじいカップルが目に入った。そのどちらも、年度の途中で転入してきたジュリアには何年生か分からなかった。少なくとも同じクラスの生徒ではない。女子の方が弁当箱を二つ取り出し、既にパンを齧っている男子へ差し出している。それを受け取った男子は食べかけだったパンの残りを一気に口へ詰め込むと、ニコニコ笑って包みを開いた。わざわざ別々の弁当を作ってきていたみたいで、開いた蓋の内側は間取りも内装も違っているのが、今いる場所からでも分かった。
カップルは完全に二人の世界に入っていた。こんな目立つ色の頭髪をした自分が窓から覗き見ていても、存在することにすら気づいていない。あるいは、気に留めていないのかもしれない。女子の方は、自分の弁当箱から取り出した卵焼きを、彼氏の男に食べさせている。見ているだけでジュリアは胸やけしそうだった。
「人に見られるような場所でよくもまぁ……っと、イチャつくカップルなんて見てる場合じゃなかったぜ。仕事行かなきゃ」
以下略
AAS
3
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あんたを驚かせに来た 2/6
[sage]
2020/11/04(水) 00:03:16.07 ID:pA5LqmH70
金木犀の香りもしなくなり、冬の足音が聞こえてきた、ある秋の朝。その日は午前に雑誌からの取材、午後のレッスンに加えて合わせ練習と、朝から夕方まで予定たっぷりだった。アイドルとしての姿をしなければならない都合上、いつものように髪をセットすることができなかった。できなくもなかったが、そこまで強くこだわる気にはならなかった。それよりも優先すべきは、今日の弁当の用意だった。
ひなたが泊まりに来たことがきっかけで、ジュリアは能動的に台所に立つようになった。料理ができない理由を今まで考えたことなど無かったが、劇場の台所でひなたや美奈子に付き添ってもらっている内、余計なことをせず基本に忠実にしていれば自然とそれなりのものが出来上がることを学習してからは、「よく知りもしないのに身勝手な自己流でどうにかしようとしていたこと」が主な原因であったことを知るようになった。少なくとも、現在のジュリアは、料理をする時は、常に匙を手元に置くようにしていた。
最近買った卵焼き用のフライパンは正解だった。スーパーで見かけるあの「厚焼きの卵焼き」を自分で作れた時は踊り出したいほどで、調味料の配分を間違えてしょっぱかったのに、夕食のテーブルに並べる前に台所で半分ほど食べてしまっていた。電子レンジが単に食べ物を温めるだけのものではなく、炒める前、あるいは煮る前の野菜に火を通したり、材料と調味料を放り込んで煮物やカレーを作るのにも使えてしまうことを知った時は、目から鱗が落ちた。そもそも、難しいとばかり思っていた煮物のような料理も、必要なものが分かってしまえばそう困難でもなかったとジュリアは体感していた。ヒラヒラの衣装をあてがわれて可愛らしくスマイルを作る方が、今のジュリアにとっては大変な苦労だった。
以下略
AAS
4
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あんたを驚かせに来た 4/6
[sage]
2020/11/04(水) 00:04:09.42 ID:pA5LqmH70
劇場まで来た記者からの取材を受け終わってからの昼休み。アイドルになっている時のメイクも直さず、ジュリアは事務室の扉の前で立ち尽くしていた。入っていく姿を見かけた。出ていく姿は見ていない。必ず彼はここにいる。拳を形作って扉に手を伸ばしては手を引いて、そんな奇行をもう四回は繰り返している。
原因は二つあった。「ジュリアさんにとっての愛情表現とはどのようなものでしょうか」という記者の質問。それ自体には問題なく「情熱を燃やすこと」と用意しておいた通りに回答した。それだけならよかった。二人分の弁当箱を手から提げて持ち歩いている時に、あの暑い日に高校で見たあのカップルを思い出したのがいけなかった。本来脈絡の無い二つの事象が、ジュリアの内心で衝突し、脈絡のあるものへと、歪んだ変貌を遂げていた。
「……くそ。あのバカPだぞ。何を緊張してんだ」
以下略
AAS
5
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あんたを驚かせに来た 4/6
[sage]
2020/11/04(水) 00:04:59.71 ID:pA5LqmH70
「ほら、フタ開けろよ」
「あ、ああ……お、見た目はまともだな」
「味もまともだよ。多分な」
以下略
AAS
6
:
あんたを驚かせに来た 5/6
[sage]
2020/11/04(水) 00:05:52.96 ID:pA5LqmH70
少しだけ顔を横に向けてみると、にこやかな笑顔が視界に飛び込んできた。その瞬間、毛穴から汗の噴き出る心地がして、ジュリアはむず痒さに悶えそうだった。そういう言葉を欲しがっていたのは自分だったはずなのに、いざそんなに優しい声で言われてしまったら、どうすればいいのか分からなかった。熱くなった顔を見られているかもしれない。この部屋の中には自分達以外誰もいなかった上に、視線を引き受けてくれるようなものも他に無かった。平常心を取り戻したくなって、咀嚼したものを飲み込む前に、ジュリアは弁当箱の中身を口の中に詰め込んでいった。
「ジュリア、最近はこんな風に自分で作ってるのか?」
「……んぐっ。ああ。もらったレシピに書いてあるものしか作れないけどな」
以下略
AAS
7
:
あんたを驚かせに来た 6/6
[sage]
2020/11/04(水) 00:06:50.70 ID:pA5LqmH70
愚痴るようにそう呟いた時、隣から自分の弁当箱に視線が注がれているのにジュリアは気が付いた。取っておいた厚焼き玉子の、最後の一切れが、箸で摘ままれたままになっている。
「これが気になるのか?」
ジュリアが問いかけると、彼はうなずいた。今日の弁当の中で一番美味しかった、と視線を弁当箱から離さずに言っているのを聞いて、箸が卵焼きを宙へ持ち上げ始めた。室温を感知した暖房がオフになった。
以下略
AAS
8
:
◆yHhcvqAd4.
[sage]
2020/11/04(水) 00:09:34.68 ID:pA5LqmH70
以上になります。ここまでお読み頂きありがとうございます。
「基本が大事!」のエピソードやグリマス時代のサバイバルのエピソードも目を通し、そこと話を繋げようとも考えたのですが、変に風呂敷を広げようとするのもどうかな、と思いこのような形になりました。公式から供給されるものが二次創作を凌駕してるってどういうことなの……。
感想等頂ければ幸いでございます。
9
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◆NdBxVzEDf6
[sage]
2020/11/04(水) 00:15:09.76 ID:3BT/FvNz0
渡し方にジュリアらしさがあるな
乙です
ジュリア(16) Vo/Fa
i.imgur.com
以下略
AAS
10
:
名無しNIPPER
[sage]
2020/11/05(木) 13:34:44.81 ID:2QnTEwL4O
かわいいね
このあとは持ち回りで弁当を作るようになるんだろうなw
11
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名無しNIPPER
2020/11/05(木) 17:31:24.25 ID:2tuoYS2sO
親切心でなくサプライズを仕掛けたくてって動機がジュリアだよな。
あーんしてたバカップルと同じことをしてるのに気付いちゃってるのに引けなくなってるのもジュリアだ。
可愛いね
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