【ミリマス】ジュリアがメシマズ克服をPに思い知らせる話
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6:あんたを驚かせに来た 5/6[sage]
2020/11/04(水) 00:05:52.96 ID:pA5LqmH70

 少しだけ顔を横に向けてみると、にこやかな笑顔が視界に飛び込んできた。その瞬間、毛穴から汗の噴き出る心地がして、ジュリアはむず痒さに悶えそうだった。そういう言葉を欲しがっていたのは自分だったはずなのに、いざそんなに優しい声で言われてしまったら、どうすればいいのか分からなかった。熱くなった顔を見られているかもしれない。この部屋の中には自分達以外誰もいなかった上に、視線を引き受けてくれるようなものも他に無かった。平常心を取り戻したくなって、咀嚼したものを飲み込む前に、ジュリアは弁当箱の中身を口の中に詰め込んでいった。

「ジュリア、最近はこんな風に自分で作ってるのか?」
「……んぐっ。ああ。もらったレシピに書いてあるものしか作れないけどな」
「そうか。だからここの所、血色がいいのか。前は青白い肌してたけど、割と今は健康そうに見えるぞ。今日の記者が撮った写真も、肌の色補正を頼まなくて良さそうだ」
「ははっ、そいつは良かった。最近、肌の調子がいい気がするんだよ」

 数分も経つ頃には、プロデューサーの弁当箱は空になっていた。「美味しい」という直截な感想は、お世辞ではなく本心だったのかもしれない、と、少し落ち着くことができたジュリアは信じたくなっていた。自分の作ったものが、自分以外の人に平らげられている。そこには得も言われぬ満足感があり、その感覚だけでジュリアは腹が満たされそうだった。ほとばしるパッションを歌に乗せて放出するライブの充実感とは、性質が異なる幸福感だった。それに――さっきの笑顔がまた見てみたい――そんなささやかな欲求が、ジュリアの中で膨らみ始めていた。
 鼓動の高鳴りを感じるジュリアを他所に、自分の食生活に注文をつけておきながら、自分以上に不健康そうな食事を取ろうとしていた隣の男は、満足げに食後のコーヒーをマグカップに注いでいた。

「なあ、プロデューサー。そっちさえよかったら、また作ろうか?」
「え?」
「あたしが劇場で昼を食う時だけな。おかずの残り物が混ざった物でよければ、二人分持ってくるぜ。消費量が増えるだけだからな」
「負担になるからいいよ……と言いたいが……正直な話、そういう申し出があって助かる。外に食いに行く時間すら惜しいことが多いんだ。この辺のコンビニはやたら混雑するから、そこで並んで時間を無駄にするのも気が進まなくてな」

 プロデューサーはばつが悪そうに視線を落とした。今日もせわしなく業務に追われているらしいことが、あまり整理されているとはいえないデスクの様子に表れていた。そんなにかいがいしく人の世話を焼く性格ではないと自覚しているジュリアでさえも、気にせずにはいられなかった。

「考えてみれば、ジュリアの食生活もこれでモニターできることになるか。一石二鳥だな」
「そこはもう監視しなくてもいいだろ。自炊できてるって証明したんだから」
「そうもいかないよ。親元離れてこっちに来てる子達は、特にね」
「あたしは大丈夫だっての……」



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