ロード・エルメロイU世の事件簿 case.封印種子テスカトリポカ
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61:名無しNIPPER[saga]
2020/10/10(土) 22:36:25.30 ID:mG1v5QBi0

「タコスか。ここで食べるにはぴったりの料理だな。マッシュポテトにサルサソース……悪くない。だが、まだ何か隠し味が……」

「これ、タコスなんですか?」

 改めてサンドイッチ改め、タコスに視線をやる。その名前は知っていた。有名なメキシコ料理だ。ただし、空港からここまで文字通りの強行軍であった為、道中で食べる機会は失われていた。

「もっとこう……U字のクラッカーみたいなものに、ひき肉や野菜が挟まれているものを想像していたのですが」

「それは所謂ハードシェル・タコスと呼ばれるものだな。本来、タコスというのは"軽食"を意味する言葉でね。トルティーヤ……これはスペイン語で、本来アステカではトラシュカリと呼ばれていたようだが、まあとにかくアルカリ処理したトウモロコシで作った生地に具材を挟んだものなら概ねタコスという扱いだ。だからこれも立派なタコスというわけさ」

 もぐもぐと食を進めながら、師匠が解説する。

「トルティーヤに使われているトウモロコシも、サルサ・ソースの材料であるトマトやトウガラシも、元々はこの地からヨーロッパに広まったものだ。ついでに言うと、豆類もアステカでよく使われていた食材だな」

「じゃあ、このジャガイモも?」

「ジャガイモも同時期にスペインによってこの新大陸から持ち帰られたものだが、それを常食していたのはインカ帝国の方だとされている。このマッシュポテトは調査隊が持って来たインスタント食品だろう。さっき荷物を調べた時、パッケージが大量にあった」

 お湯や牛乳を注ぐだけで出来るインスタント・マッシュポテトは師匠も愛食していた。ただし目分量で作る為、ポタージュかと見紛うほどの代物を啜っている姿がよく見られる。

 そんな料理に関しては雑な師匠も、このタコスの味は気に入ったらしい。早々に二つ目に手を伸ばしている。

「ああ、ところでレディ。少し訊ねたいのだが、道中、これを使ったかね?」

 と、師匠が取り出したのは出立前に自分とライネスに見せた例の携帯電話モドキだった。正式名称も教えて貰ったのだが、微妙に覚えていない。イリ……何とかというらしい。

 二台持ち込んだ内のひとつを自分は預けられていた。といっても、高価な機材である。いまとなっては意味も薄いが、本来は生命線ですらあったのだ。弄り回す度胸など有る筈もなかった。

「いえ、預かってからはずっと鞄に入れっぱなしでしたが」

 そもそも内臓部品のいくつかのせいで飛行機に乗せるには問題があったらしく、とはいえ船便で送ると間に合わないということで、検査を誤魔化す為の魔術が掛けられた小箱に入れられていたのだ。

 ショルダーバッグからリュックサックに移す際も、その小箱ごと移し替えたのである。

 そう説明すると、師匠は難しい顔をして額を手で押さえた。

「やはりそうか……荷物でボタンが押されて電源が入ったということもないな……となると……」

「あの、師匠。何か問題が?」

「ああ、いや。些細なことだ。想像よりもバッテリーの消費が早くてね。予備のバッテリーも持ち込んであるから、特に問題は無いよ」

 口調だけは努めて穏やかにそう言いながらも、師匠の顔には隠しようのない苛立ちのようなものが浮かんでいた。フラットが騒ぎを起こしたり、それを止めようとしたスヴィンが結果として被害を拡大させた時に浮かべるような表情だ。

「師匠……?」

「気にしないでくれ。それよりも、ほら。タコスをもうひとつ、どうかな。ここから先では、そうそう手の込んだ料理は食べられないぞ」

 誤魔化すようにそう言って、師匠は残りひとつとなったタコスの皿をこちらに付き出してきた。

 僅かに迷う。いつも摂る朝食の量を考えれば、今朝はもう十二分に食べたことになるのだが。

「――では、いただきます」


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