12:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:10:03.80 ID:W5lmC8VA0
強いて私にも、使命があったとすれば、千夜ちゃん。
きっかけを与えられたことで、ようやくあの子は生きがいを得た。
黒埼の従者という呪いから解き放たれ、アイドルの世界で、自由に輝く太陽になれた。
13:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:11:47.79 ID:W5lmC8VA0
千夜ちゃんと一緒に住んでいるマンションから15分ほど歩いた所に、比較的大きな公園がある。
見つけたのは、つい最近。
ランニングする人。犬の散歩をする人。誰かと電話しながら足早に歩くサラリーマンさん。
向こうの広場を見ると、子供達が遊具でキラキラと声を上げて遊んでいた。
14:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:13:31.28 ID:W5lmC8VA0
千夜ちゃんを送り出した私は、この先誰かに干渉したり、何かを与えたりするのかな?
世界の片隅にポロリと落っこちた、名も無き部品という立場で、最期の時まで傍観し続けるのも、それはそれで――。
15:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:17:00.76 ID:W5lmC8VA0
ポカポカ陽気が差し込む光の中へ躍り出て、その子の背後からそぉっと近づいてみる。
2m……1m……。
よほど集中しているのか、こんなに近づいても気がつかない。
お花のモチーフをあしらったシュシュで留まる柔らかなポニーテールが、私の目の前でふわふわと揺れている。
16:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:18:26.09 ID:W5lmC8VA0
「…………」
私の姿を観察し、この子なりに何かを得心したのか、やがて彼女はニコリと小さく微笑んだ。
それは、相手との間合いを量るための、打算的な取り繕いとは違う。
17:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:20:21.90 ID:W5lmC8VA0
曖昧な返事をして首を傾げる私に、彼女はクスリと優しく笑って、丁寧に言葉を紡いだ。
「お散歩が、好きなんです。
綺麗に咲いたお花、吹き抜ける風、空にかかる虹……さっきのあの子だけじゃなく、色んなものに出会うことができます」
18:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:22:15.08 ID:W5lmC8VA0
明るい陽光の下は、普段そんなに好きじゃないんだけど、たまには良いことあるんだなぁ。
「自己紹介がまだだったよね。
私は、黒埼ちとせ。それ以外は、今はナイショ♪」
19:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:26:38.97 ID:W5lmC8VA0
「お嬢さま、何をご覧になられているのですか?」
千夜ちゃんは、珍しく帰りが早かった。
夕食の準備をしながら、台所から普段よりも通る声で私に問いかける。
今日はボーカルトレーニングだったんだね。
20:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:27:59.79 ID:W5lmC8VA0
「346プロ……」
ブログのプロフィールを見て、千夜ちゃんが呟いた。
魔法使いも言っていた、大手の芸能事務所だ。
21:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:30:08.69 ID:W5lmC8VA0
私の身勝手な行動が今に始まった話でないことは、千夜ちゃんも十分に分かっている。
だから、きっとアレは、今の忠告が馬耳東風に終わることを悟ったため息。
「ごめんね、千夜ちゃん」
22:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:31:04.38 ID:W5lmC8VA0
あの頃と違って、千夜ちゃんはしっかりと自分の人生を歩んでいる。
正しく順風満帆と言って良い。
黒埼の従者としての使命から解き放たれて、自分の足でしっかりと。
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