十時愛梨「それが、愛でしょう」
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18:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 17:55:48.66 ID:n4MKx+790
「……似合って、ますか?」

 一瞬だけ、瞬きをしていたら見逃してしまいそうな僅かな間、愛梨の細い眉がどこか不安げに八の字を描く。
 言葉とは裏腹に、いつだって愛梨はマイペースでいつも通りに見えるけれど、これだけの大舞台だ。裏方の僕ですら、今も胃がひっくり返りそうなほど緊張しているというのに、その舞台に登る当人なら言わずもがなだろう。

 ああ、そうだ。きっとそうやっていくつも見逃して、去って行く時間と一緒に、通り過ぎていった。
 たった一瞬の不安に、それを見付けられるまでに費やした時間のことを思い返す。
 それでも、砂時計をひっくり返したところでさっきこぼれ落ちた三分が戻ってくるわけじゃないことを、僕たちは知っている。だから。

「ああ。とても似合ってる……なんだか、お姫様みたいだ」

 ありったけの想いを込めて、大丈夫だと、そうであってほしいと、そんな祈りと共に言葉を紡ぐ。
 出力されたものは、自分でも笑ってしまいそうになるぐらい陳腐でありふれたものだったけれど、愛梨をもし一言で表すのならば、世界で一番その言葉が似合うはずだ。それだけは、自信を持って断言できる。
 そしてそれに間違いがないことを、ドレスを身に纏った彼女の姿が、その頭上に輝くお姫様のティアラが、何よりも力強く証明してくれていた。


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