19:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/18(木) 17:57:01.77 ID:n4MKx+790
「じゃあ、この衣装を選んでくれたプロデューサーさんは魔法使いですか? それとも、王子様?」
からかうように、ちろりと紅い舌先を覗かせて、愛梨はそう問いかけてきた。
「僕はそんなに大層なものじゃないよ、愛梨」
プロジェクト・シンデレラガールズ。発足当初は百人以上、今は二百人にも匹敵するアイドルたちを集めて競い合わせ、その中から未来のトップアイドルたり得る人材を育成するという、天海春香のアイドルアワード受賞をきっかけにして、アイドル戦国時代の潮流を感じ取った業界最大手が惜しみなく資金と人員を導入した事業計画の名前であり、愛梨が参加しているプロジェクトだ。
世界でも五本の指に入るぐらい有名な童話の題名を謳い文句に掲げているからか、それとも単に能力や個性を重視して無作為にアイドルもプロデューサーもかき集めたからか、時折魔法使いがどうのとロマンチックな名前で呼ばれる同僚がいる。
彼がそう呼ばれるに値する人物かどうかはわからないけれど、間違いなく、魔法使いという称号は僕に相応しくない。王子様なんてもってのほかだ。
「そうですか? でも、私にとってのプロデューサーさんはいつだってヒーローでしたよっ」
「からかわないでほしいな」
「ふふ……じゃあ、エスコートしてくれますよね、プロデューサーさん」
冗談交じりにはにかんで、白い手袋に包まれた愛梨の右手が差し伸べられる。
照れ隠しに腕時計を一瞥すれば、公演の開始まで、それほど時間は残されていなかった。
終わる。それを意識した瞬間、引退という言葉とその意味が、両肩にのしかかってきた。
それがどんな形であれ、今日、この公演を終えれば愛梨はアイドルではなくなる。
間違いなく、愛梨の終わり方は幸せなものだといえるだろう。異例の速度でスターダムを駆け上がって、初代シンデレラガールの称号を勝ち取って、そこからアイドルアワードに選出されたことで、活動中の数年間はずっとトップアイドルの名をほしいままにしてきた。
誰もが羨むようなシンデレラストーリー。もしも、僕自身がそこに関わりを持たなければきっと何かを勘ぐりたくなってしまうような、そんなできすぎたまでに幸せな物語が今、終わろうとしている。
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