1: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/05/21(木) 19:33:53.41 ID:wq3E2ozi0
彼女は片手に持ったグラスを、手首を軸にくるくる回す。
それに伴って、氷がからんからんと小気味の良い音を立てる様は、どこか楽器のようだった。
「なんて言うんだっけ。夏っちゃんのお付きの人。いつもスーツの」
「プロデューサーのこと?」
「そうそれ。たまにお迎えに来てるの見るけどさ」
「ええ」
「何て言うかこう、善人! って感じだよね」
言って、彼女はわざとらしく背筋をぴしりと伸ばし前髪を七対三の割合で分ける。
「ふふ。そんな髪型してたかしら」
「これはウチの善人イメージ」
「けれど、確かに善人で間違いないわね。それも、筋金入りの」
「夏っちゃんと上手くやってんだもんね」
「どういう意味かしら?」
「あはは。冗談だって」
「……でも、そうね。アナタが言わんとしていることもわかるの」
軽く呟いて、体を前方にやや傾ける。
ストローに軽く口をつければ、ほんのり甘いアイスコーヒーの味と香りが広がった。
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2: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/05/21(木) 19:34:29.08 ID:wq3E2ozi0
「きっと初対面の私って、とっつきにくいと思うのよ」
「んー。そうかなぁ。ウチは平気だったけど」
「アナタは誰に対しても物怖じしないじゃない」
「そうかも」
3: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/05/21(木) 19:36:32.83 ID:wq3E2ozi0
「ちなみに、どうして私が悩んでるってわかったの?」
「あれ、自覚ない?」
「?」
「夏っちゃんさぁ、結構顔に出るよ? 寂しいときしゅん、って顔するの」
4: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/05/21(木) 19:37:36.79 ID:wq3E2ozi0
「夏っちゃんのプロデューサーさんは迷惑そうな感じなの」
「迷惑……迷惑なのかしら。よくこう言うのよね」
「なんて?」
「自分の時間を大切にしてくれ、って」
5: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/05/21(木) 19:38:29.09 ID:wq3E2ozi0
「……ここぞで開け」
「そう! ここぞで開け!」
「ここぞ、っていうのはどういうときになるの?」
「それはもう、夏っちゃんが寂しいなー、を一番感じた瞬間だよ」
6: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/05/21(木) 19:39:30.44 ID:wq3E2ozi0
〇
撮影のお仕事は想定していたよりも長引いて、夕食を食べるに適した時間からも、朝食を摂るのに適した時間よりも遠い、中途半端な暗闇へ私は放り出される。
遅くなる、とは聞かされていたけれど、ここまでとは。
7: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/05/21(木) 19:40:35.88 ID:wq3E2ozi0
送られてきていた二枚の写真を保存して、ぼうっと眺める。
すると、私はあることに気が付いた。
もしかしなくても、カトレアをプロデューサーに預かってもらってしまっている。
8: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/05/21(木) 19:41:15.19 ID:wq3E2ozi0
『お疲れ様。……にしても、押したなぁ』
「今は放クラ唯一の午後十時以降も働けるアイドルだもの。これくらいどうってことないわよ」
『頼もしい限りだよ』
「そんなことより、ごめんなさい。カトレアが迷惑かけてない?」
9: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/05/21(木) 19:41:41.30 ID:wq3E2ozi0
『夏葉』
しかし、期待に反して彼の声のトーンは一段落ちて、短く私の名前を呼ぶ。
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