有栖川夏葉「ここぞで開け!」
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2: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/05/21(木) 19:34:29.08 ID:wq3E2ozi0

「きっと初対面の私って、とっつきにくいと思うのよ」
「んー。そうかなぁ。ウチは平気だったけど」
「アナタは誰に対しても物怖じしないじゃない」
「そうかも」
「で、ね。そんな私ともコミュニケーションを取るのを諦めないで、一つ一つ向き合ってくれたのだから、それって……すごいことなのよね」

私の話を聞いているのか、いないのか。
彼女は机上にある豆菓子の入った袋を雑に開けて、一つを取り出して宙へ放る。
ふんわりとした軌道を描いた豆菓子は重力に従って落下し、見事に彼女の口へと着地した。

「つまり、さ」
「?」
「夏っちゃんは、そんだけ尽くしたくなるくらい良い女ってことよ」

ばりぼりと豆菓子を噛み砕きながら言う彼女を、私は「お行儀、悪いわよ」と窘める。

「それに、そんな話だったかしら」
「そういう話だって。誰かに良くされる人っていうのは、誰かにとって良い人なんだよ」

普段はお道化ているようでいて、たまにこういうことを言うから侮れない。
事実として、大学生となってからしばらく経つが、彼女の哲学には何度か救われてきた。

「第一さぁ。プロデューサーって言うからには、プロデュースする人なわけでしょ? アイドル有栖川夏葉を」
「ええ」
「夏っちゃんの送り迎えなんて、本来の業務じゃあないんじゃないの」

指摘されて、はっとする。
何でもないことのように思っていたけれど、言われてみればそうだった。

「帰り、家まで送ってくれる……とかさぁ、寝坊しかけたときに朝ごはん買って迎えに来てくれるとかさぁ。そんなん仕事じゃないと思うよ。芸能事務所がどういう感じで勤怠管理してんのかは知んないけど」

彼女は手元のスティックシュガーを持ち、その先を私に向け一言一言を刺すように、言う。
全部そのとおりだ。

「……と、まぁ。柄にもなく真面目に喋ってみました。なんか悩んでるように見えたし」

本当に恥ずかしいのか、ちろりと舌を出して彼女は照れたように笑う。
私はただただ「……そうね」と返すばかりだった。



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