5: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/05/21(木) 19:38:29.09 ID:wq3E2ozi0
「……ここぞで開け」
「そう! ここぞで開け!」
「ここぞ、っていうのはどういうときになるの?」
「それはもう、夏っちゃんが寂しいなー、を一番感じた瞬間だよ」
何もかもが謎だらけだったけれど、彼女が突拍子もないことをし出すのは今日に始まったことではないので、大人しく受け取ることにした。
「ここぞで開いた後は、返してね。ウチの戒めだから」
「ここぞ、ってそんなにすぐ来るものなのかしら」
「来るよ。たぶんね。今日もお仕事でしょ? 夏っちゃん」
「ええ」
ちらりと時計を見やる。
今日は撮影のお仕事が入っていた。
もうそろそろ、スタジオへと向かってもいい頃合いだ。
「時間、そろそろでしょ。行っていいよ。ウチはもうちょいのんびりしてから帰るから」
その言葉に甘えるべく、伝票を手に立ち上がろうとしたところ、私の手よりも早く彼女の手が伝票を掠めた。
「ちょっと」
「今日はウチが奢ったげる。だから、また今度奢ってよ。これなら文句ないでしょ?」
「……」
「もちろん、夏っちゃんが友達との約束を無下にしちゃうような薄情な女なら話は別なんだけど」
「まさか」
このまま押し問答を続けても無駄だと悟った私は、諦めて胸を張る。
「私ほど、友達想いな人間もそうはいないわよ?」
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