2: ◆dzX3.Do/lI[sage]
2020/05/09(土) 23:36:54.35 ID:iiO5naNP0
プロデューサーさん。
私が貴方と出会って、もう何年かが過ぎようとしています。
今日は5月9日。
私は明日、あなたと一緒に、自分のアイドル人生をかけた大一番に挑みます。
3: ◆dzX3.Do/lI[sage]
2020/05/09(土) 23:37:28.09 ID:iiO5naNP0
だからこれは、貴方のまねっこ。
ただ、私の今の気持ち、今の思いをまとめるために、この手紙を書いています。
見せもしない手紙に、こんなことを書くのはヘンかもしれないけれど。
4: ◆dzX3.Do/lI[sage]
2020/05/09(土) 23:38:19.49 ID:iiO5naNP0
プロデューサーさんにスカウトされたときは、それはもう驚いちゃいました。
初対面の人。それこそ、すれ違いざまにご挨拶した方にスカウトされたんだから。
アイドル。
5: ◆dzX3.Do/lI[sage]
2020/05/09(土) 23:38:53.44 ID:iiO5naNP0
けど、その時は信じられた。……なんでかな?
貴方の目が、それだけ真剣だったからでしょうか。
この人は嘘を言ってない。
本気で、私をその『最果て』へ連れて行こうとしている。
6: ◆dzX3.Do/lI[sage]
2020/05/09(土) 23:40:02.07 ID:iiO5naNP0
プロデューサーさんに連れられて、事務所についてからは、驚きの連続でした。
テレビでしか見たことない、可愛い女の子たち。
電気屋さんでも見たこともない、たくさん並んだ大きなカメラたち。
部屋一面に並べられた、煌びやかなステージ衣装たち。
7: ◆dzX3.Do/lI[sage]
2020/05/09(土) 23:40:35.71 ID:iiO5naNP0
「ところで……先ほどの『最果て』って、なんですか?」
「……やっぱり、分かりづらかったでしょうか」
8: ◆dzX3.Do/lI[sage]
2020/05/09(土) 23:41:10.09 ID:iiO5naNP0
その日から今日まで、長い長い時間を、プロデューサーさんと一緒に過ごしました。
貴方との日々は、毎日が宝物ですけれど。
その中でも、ひとつ……。とても心に残っていることがあります。
9: ◆dzX3.Do/lI[sage]
2020/05/09(土) 23:43:29.35 ID:iiO5naNP0
「そうしたら……ちょっと、考え方を変えてみましょう」
「考え方、ですか?」
10: ◆dzX3.Do/lI[sage]
2020/05/09(土) 23:44:28.77 ID:iiO5naNP0
ぐっと手を握り締めて。ぎゅっと悔しさを抑え込んで。
「こんな私なんかじゃ」………そう言葉を続けようとした、私の口を。
11: ◆dzX3.Do/lI[sage]
2020/05/09(土) 23:45:24.57 ID:iiO5naNP0
「高森さん言ってたじゃないですか。『ファンの皆さんに幸せな気持ちになってほしい』って」
「確かにアイドルは甘い世界じゃないです。今回のように、優劣だって勝ち負けだってつきます」
「いえ……もっと厳しいことを言えば、今回が最後のステージなんてこともあり得ます」
12: ◆dzX3.Do/lI[sage]
2020/05/09(土) 23:45:57.20 ID:iiO5naNP0
誰かと勝負するのは、とても怖いことです。
もしかしたら、上手く行かないかもしれない。もしかしたら、負けるかもしれない。
もし負けたら、もし続けられなくなったら……。
そんな「もし」ばかりが、私の心に影を落としていました。
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