22:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/19(木) 22:48:17.56 ID:z07AMiQQO
八百屋さんや本屋さん、魚屋さんの軒先が連なる通り。そこを抜けて、銀河青果店も通り過ぎて、商店街の南を目指す。
通りがかった電気屋さんの店頭に置かれたスピーカーからはラジオが流れていた。
23:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/19(木) 22:48:48.24 ID:z07AMiQQO
やがて目的のラーメン屋が視界に映る。
小さな店構え。
24:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/19(木) 22:49:31.69 ID:z07AMiQQO
「こんにちは。珍しいですね、商店街のこの辺りにいるのって」
「え、ええ、そう……ですね……」
25:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/19(木) 22:50:20.19 ID:z07AMiQQO
「……なんだか元気がなさそうですけど、大丈夫ですか?」
羽沢つぐみはそんな紗夜を心配そうに見つめる。何か力になれることがあるなら手伝いたいという気持ちになっていた。
26:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/19(木) 22:50:57.56 ID:z07AMiQQO
「あれー、つぐちゃんにおねーちゃん!」
あっけらかんとした明るいハスキーボイス。羽沢つぐみの後ろから、ショートカットの髪を弾ませながら歩いてくる氷川日菜の姿があった。
27:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/19(木) 22:51:37.29 ID:z07AMiQQO
「実は」乗るしかない、この流れに。機を見るに敏な紗夜は迷わず口を開く。「私もそうなんですよ、羽沢さん」
そうだ、こう言っておけばいい。なにせ私と日菜は双子だ。生まれる前から一緒なのだ。そんなふたりが同じことを思って同じ場所にいる。それなら何もおかしなことはない。いい意味での、destinyの方での運命的でドラマチックなフタゴリズム。情に篤い羽沢さんだ、これを聞けば何も言わずに引くだろうし、日菜だって乗ってくるはずだ。ひとりでラーメンが食べられないのはこの際仕方ない。背に腹は代えられないし、この理論で言えば日菜と私はいわば一心同体の運命共同体だからセーフ……と、紗夜は口に蜜あり腹に剣ありの様相を呈す。
28:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/19(木) 22:52:42.68 ID:z07AMiQQO
彼女の瞳には、紗夜と日菜の間に様々なお花が咲き乱れているような幻覚が映っていた。それはピンク色したスイートピーだったり、紫色したチューリップだったり、イチゴだったり、ミツマタだったり、ゼニアオイだったりした。
それが何を意味するのかはわからなかった。でも、羽沢つぐみの脳内に住むいつもの5割増しにクールな美竹蘭が「3月20日の誕生花だよ。花言葉は……まぁ、たくさんあるから、自分で調べて好きなのを選べばいいんじゃない」とイケボで囁いた。なるほど、つまりそういうことなんだね、蘭ちゃん。
29:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/19(木) 22:53:51.55 ID:z07AMiQQO
「よかったですね、日菜先輩」
「うん! あ、つぐちゃんも」
30:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/19(木) 22:54:34.04 ID:z07AMiQQO
長い一日だったわね。
券売機でネギとろチャーシュー麺の券を買って店員さんに渡し、カウンター席に座って、日菜が用意してくれたセルフサービスのお水を一口飲み込み、紗夜は長い息を吐き出した。
31:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/19(木) 22:55:23.74 ID:z07AMiQQO
「でも珍しいね。おねーちゃんがラーメン食べたいって」
「そういう日菜もじゃない。どういう風の吹き回し?」
32:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/19(木) 22:55:50.52 ID:z07AMiQQO
食というのは不思議なものだな、と紗夜は思う。
美味しいものを食べている時は、難しい悩みごとも、忘れたいことも忘れたくないことも、意識の外に置いておける。世界平和が訪れる。今であれば、どんぶりに咲く一輪のチャーシューとネギととろろのコラボレーション以外に何もいらないという気持ちになれる。穏やかに日菜と向き合える。ラーメンというのは奥深い食べ物なのね。
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