4:名無しNIPPER[sage saga]
2019/12/25(水) 05:10:22.91 ID:77T4edg60
漏れ出した息が白く形を作って、落ちてくる雪の中に溶け込んで消えた。
私は、あの空気の塊に「ばかもの」と名付けた。
名付けて、髪やら鼻先に容赦なく乗っかる雪を感じながら、瞼を閉じる。
5:名無しNIPPER[sage saga]
2019/12/25(水) 05:11:50.64 ID:77T4edg60
クリスマスの街は、とても居心地が悪かった。
別に、恋人たちが手を繋いでいたり、抱き合っているのを見るのは嫌ではない。
きっと、彼らにはそれが幸せで、天国にいるみたいな気分なんだ。
それは、素敵なことだと思う。
6:名無しNIPPER[sage saga]
2019/12/25(水) 05:13:55.36 ID:77T4edg60
きっと神様は怠け者だ。
あんなに「みんなに奇跡を」みたいな顔をしてクリスマスを開いているくせに、ちゃんと幸せにするのはイルミネーションを見ながら手を繋ぐ恋人だとか、経済状況の良い子供とかばっかりだ。
ティッシュ配りに精を出すお兄さんだとか、独りで仕事に勤しむサラリーマンだとか、自分の才能のなさに全部を投げ出してベンチで呆ける元アイドルには見向きもしない。
7:名無しNIPPER[sage saga]
2019/12/25(水) 05:15:55.15 ID:77T4edg60
――それでも、もし神様がこの雪を「平等な救済」のつもりで降らせているなら、それも案外悪くないかもしれない。
このまま、マフラーとか、コートの間も冷たい塊でいっぱいに満たされて。
どんどん色のないふわふわに埋もれて、自分の体温も、世界との境目も分からなくなって、雪と一緒に透明になって溶け出せたら。
ああ、どんなに奇跡的だろうか、なんて。
8:名無しNIPPER[sage saga]
2019/12/25(水) 05:21:01.74 ID:77T4edg60
「天使、ですか」
目を開けると、そこに女の子が立っていた。
暖炉の灯りみたいに煌びやかな金髪をした、揺れる炎のように赤い瞳の少女。
9:名無しNIPPER[sage saga]
2019/12/25(水) 05:23:50.60 ID:77T4edg60
「お姉さんは、何をしているんですか……?」
何って。
思わず溜まっていた感情が言葉に変わりそうになって、どうにかグッと呑み込んだ。
10:名無しNIPPER[sage saga]
2019/12/25(水) 05:25:37.31 ID:77T4edg60
「あの、プレゼント……、なにか貰ってくれませんか……?」
慌てて彼女は提げていたビニール袋を広げると、とても熱がりながら、中から肉まんの包み紙を取り出した。
まだ買いたてらしく、湯気がもくもくと立ち込めている。
11:名無しNIPPER[sage saga]
2019/12/25(水) 05:30:01.82 ID:77T4edg60
「今日は、クリスマスなんですよ……」
熱々の肉まんを小さな口に運びながら、彼女は幸せそうに目を細める。
肉まんの湯気と吐息が合わさって、彼女の口元には白いもやが浮かんでいた。
12:名無しNIPPER[sage saga]
2019/12/25(水) 05:35:57.78 ID:77T4edg60
「みんなで歌を歌うとき、本当は神様じゃなくて、みんなのために歌ってました……。今日は、その方がいいと思ったから……。」
少し伏せて語るその言葉は、誰に向けられて紡がれているのだろうか。
私にはその一つ一つの息継ぎの裏側に、彼女と同い年くらいの子供たちの姿が想像できた。
13:名無しNIPPER[sage saga]
2019/12/25(水) 05:40:27.38 ID:77T4edg60
十二月十五日、深夜。
スマホを起動したら、案の定、不在着信の嵐だった。
情けない。
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