21:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:39:53.61 ID:PR8wYl2Go
たい焼きを食べ終わる頃には、唯先輩の手元にはりんごあめしか残っていませんでした。食べている最中にムギ先輩にも譲っていたのですが、それにしたって尋常じゃないスピードです。
「あずにゃん、そんなにじーっと見てどうしたの?」
「一瞬で食べ物が消えてたらじーっと見たくもなります」
そう言っても唯先輩は依然、小首を傾げて、自分の口元手元に目線をやっていました。
「あっ、分かった! りんごあめも食べたいんだ。欲しがりさんめ〜」
22:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:40:44.95 ID:PR8wYl2Go
「しょうがないなぁ〜。はい」
「……はい?」
「私のアメあげるよあずにゃん。二人で分けっこしよ?」
「なっ…………!?」
とっさに私へ差し出しているアメに目を落としました。形はあまり崩れていませんが、反対側の輪郭はもうしなっと曲がり、所々が濡れて妖しい光を放っていました。いや、この濡れてるのって、もしかしなくても……!
23:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:42:58.58 ID:PR8wYl2Go
ど、どうしよう……。でも唯先輩が困ってるって言うなら、助けてあげるべきだよね……? そう、これはあくまで人助けなんです。あくまで唯先輩を助けるために……
「あ、ムギちゃん。リンゴあめ食べる?」
「いいの? じゃあお言葉に甘えて〜」
「あっ……」
悩んでいる間に、あめはムギ先輩の口に入っていき……
24:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:44:32.71 ID:PR8wYl2Go
「たくさん食べたし次は遊ぼうよ!」
「もう、ちょっとは休みましょうよ」
「ダメだよ〜。お祭りは無駄なく遊ばないと」
ふんすと鼻を鳴らして、唯先輩はゲームの屋台がある左の小路へと入っていきました。
「もう、唯先輩は相変わらずですね」
25:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:45:33.14 ID:PR8wYl2Go
「唯ちゃん、梓ちゃんと会えるのをすごく楽しみにしてたもの。久しぶりにあずにゃんに会える! って事あるごとに言ってたのよ」
「……どうせ、ひっつく相手がいなくて寂しがってただけですよ」
「うふふ、そうね」
そう言うと、雑踏の前から唯先輩の呼ぶ声が聞こえました。
26:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:47:40.71 ID:PR8wYl2Go
「あずにゃんムギちゃん、人で溢れちゃってるよー……」
唯先輩が退いてきた先では、隙間も無いほどの人の群れ。ちょうど近くで神輿の掛け声が聞こえるので、きっとそのせいでごった返してしまっているのでしょう。
「これを抜けるのは大変そうね……」
人混みを一目見て、ムギ先輩はそう呟きました。
「う……」
27:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:51:01.29 ID:PR8wYl2Go
あーずーにゃん」
ふわっと、手に温もりが重なったような気がして、見ると唯先輩が、私の右手をすっぽりと包んでいました。
「これならはぐれないかなぁ、って思って……。ダメだったかな」
そう言って唯先輩ははにかむように笑いました。さっきの不安なんて霞にしてしまうような、優しい、照れくさそうな笑顔。固まった身体が徐々にほぐれていく気がしました。
28:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:53:02.78 ID:PR8wYl2Go
「……私と会いたがってた、って聞きましたから。特別です」
そう言って、より一層手を握る力を強めました。
「えへへ、ありがとあずにゃん。あずにゃんは優しいね」
「……優しいもんですか」
「優しいよ〜っ」
29:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:53:39.03 ID:PR8wYl2Go
「ふぅ、どうにか抜け出せましたね」
「はぐれなくて良かったぁ……。でもムギちゃん、ごめんね、繋ぐ手の余りがなくって」
「大丈夫よ。私には百合の磁力があるもの。二人とは絶対に離れないわ」
「? 綺麗な磁力だねぇ」
人混みを脱した直後だと言うのに、ムギ先輩の呼吸も表情も、一切崩れていませんでした。
30:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:54:11.90 ID:PR8wYl2Go
「あっ、ムギ〜! 唯と梓も!」
一息ついた所で景色が開けると、偶然にも、眼前に律先輩が現れました。
「なんだ、結局放課後ティータイムは一つに集まる運命なんだな」
「運命だなんてっ……。りっちゃんロマンティック〜」
「はは、澪の癖があたしにも移っちゃったみたい……」
31:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 22:55:39.28 ID:PR8wYl2Go
「そういえば澪ちゃんは?」
「あぁ、澪なら……」
そこで言葉を切り、後ろの方を指さします。澪先輩は、屋台をじっと睨んだまま、何かを投げるようなポージングで固まっていました。実際何かを手に持っているようで、それは……
「あれ、輪投げですか?」
「そっ。だるま落としの方が簡単だって言ったのに、だるまが落ちんのは演技が悪いって聞かなくて」
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