嫉妬深い強欲デブでスケベで怒りに燃える怠け者の男「俺こそが唯一絶対の存在だ」
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2: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/07/29(月) 23:41:03.64 ID:8MZ+TPk10

 男は、とある墓園の管理を行政から任されていた。墓園を綺麗に保ち、新しい入居者があれば快く迎え入れる、それが男に託された唯一の責務であった。しかし、男にとってその仕事は至極退屈なものであった。園内の清掃は、一時間もあれば終わってしまい残った時間は小さい管理室で何をするでもなく過ごすしかない。いつしか時間を持て余した男は、自ら仕事を探すようになった。

 無縁仏の受入れ営業は、男が思いついた仕事のなかでも特に有意義なものであった。広大な墓園には、まだまだ未入居の土地が大量にあったため、男はそこを積極的に売り出すことにしたのだ。だが、たいていの亡骸は、その親族によって所縁ある墓へと埋葬されている。だから男は、営業のターゲットを孤独な者たちへと絞った。目論見は見事的中し、男は膨大な数の入居者を獲得し、それら入居者を墓園へ迎え入れ、埋葬し弔うという、永遠にも等しい時間のかかる新たな仕事を手に入れた。それは、男の本来の仕事とは大きくかけ離れたものであったが、誰も男を咎めることはなかった。


3: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/07/29(月) 23:41:30.57 ID:8MZ+TPk10

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 その男は、貪食の限りを尽くした。

以下略 AAS



4: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/07/29(月) 23:41:57.50 ID:8MZ+TPk10

 ある朝、男は墓園の中にある実家の墓に向かった。墓石には、祖父母と両親、それと若くして亡くなった兄の名が刻まれている。男は、手を合わせながら、いつか自身もこの墓に入るであろうということに思いを馳せた。決して、仲の良い家族とは言えなかったが、それでも在りし日の思い出は男に幸せを与えてくれる。再び、死んだ家族と相まみえ食卓に並ぶことが男の夢であった。

 祖母のサバずしは絶品だった、母の作るカレーは謎の苦みを有していた。父が連れて行ってくれた、こってりが売りのラーメン屋。祖父が買ってくれたソフトクリーム。兄と奪い合った、自生のアケビの種。思い出すだけで、男の腹はぐううと音をあげる。だが、どれも今の男には再現しようのないものばかりだ。だから男は、思い出の料理に思いを馳せ、せめてもの慰みに今日もお気に入りのあんこに手を付けるのだった。


5: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/07/29(月) 23:42:24.50 ID:8MZ+TPk10

?

 その男は、怠惰であった。

以下略 AAS



6: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/07/29(月) 23:42:52.33 ID:8MZ+TPk10

 男は、バイク屋へと押し入り使えそうなパーツを片っ端から盗んだ。そして時間をかけて、一つ一つの部品を丁寧に交換し、再びセルを回す。深夜の住宅街に、ギュンギュンとセルモーターの金切り声が轟く。ギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュン……ドルンドルンドルンドドドドドド。息を吹き返した愛車に、男は狂喜乱舞し、まるでステップを刻むかのようにリズミカルにアクセルをひねり続けた。

 その2日後、男は北海道にいた。その広大な大地を、俺の愛車で踏破してやる、そう息巻いた。しかし、美しい景色に心振るわせるのも初めのうちだけで、男はしばらくするとバイクを走らせることにすら飽いてしまったのだ。更に2日後には、男は自宅へと戻り、更にその翌日には何事もなかったかのように職場へと向かうのであった。

以下略 AAS



7: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/07/29(月) 23:43:19.53 ID:8MZ+TPk10


?

 その男は、色欲に溺れた。
以下略 AAS



8: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/07/29(月) 23:43:46.99 ID:8MZ+TPk10

 だが、かつての思い出も男の無限に沸き上がる猛りを抑え込むことはできなかった。その日も、男はアダルトコーナーへと赴き今晩の供となる円盤を物色していた。棚の前に、仁王立ちで陣取り、棚に並べられたDVDのタイトルをじっくりと眺める。しかし、長年通い続けてきたせいか、DVDのタイトルを見るだけで、男はその内容を完全に脳内で再生することができた。男は、まだ出会っていないDVDを求めて別の棚へと移る。だが、どういうことだろうか。男がいくら探そうと、男が見たことのないAVは見つからなかった。

 それもそのはず。男は、既にその店に存在するすべてのAVを鑑賞しつくしてしまっていたのだ。男は、人目をはばからずにアダルトコーナーで声をあげて泣いた。本物の女だけでなく、AVまで俺を裏切って逝ってしまうのかと。男は、悲しみのあまり、他の店にAVを漁りに行くという通常の思考すらできなくなっていた。男の性欲は、AVの枯渇をきっかけに完全に決壊し、その全てが開け放たれた。男は、「俺だって本当は、AVなんかじゃなくて本物の女を抱きたいんだ」と店内に響き渡る声で泣き叫んだ。しかし、それに答える女性など居はしなかった。それどころか、老若男女を問わず泣きわめく男に寄り添うものは誰一人としていないであろう。

以下略 AAS



9: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/07/29(月) 23:44:14.40 ID:8MZ+TPk10
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 その男は、嫉妬深かった。

 最初の感染者は、南米の聞いたこともない国で見つかった。その感染者は、つい前日まで普段と変わらぬ生活を送っていたにもかかわらず、翌朝に自宅のベッドの中で冷たくなっているのを発見された。はじめは、単なる病死と思われていたが、その感染者に一切の病歴が無かったこと、また同時多発的に同様の死者が発見されたことで、その病気は世間に認知されることとなった。
以下略 AAS



10: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/07/29(月) 23:44:43.86 ID:8MZ+TPk10

 やがて、人々も研究者と同様に無駄なあがきをやめ、残された時間をより質の高いものにしようと考え、世界に人類史上初めて一切の争いのない穏やかな時間が流れることとなった。辛うじて機能していた各国政府は、ワクチン研究に託された膨大な予算を引き上げ、それらを広大な墓園の造成にまわし始めた。亡くなった感染者を放置することで、新たな病気が蔓延することを防ぐためだ。どうせ死ぬのなら、苦痛なく逝ける「眠り病」で。いつしか、人々は「眠り病」を救いとして受け入れるようになっていた。男の就職先も、そうやって作られた墓園の一つであった。

 男は、隣人が死に、友と連絡がとれなくなり、家族をみとっていく中で、先に逝くことができた全ての人々をひどく羨むようになっていた。大事な人たちを失う度に襲い来る悲しみが、そうさせたのだ。どうして、俺はまだ生きているのだ。どうして「眠り」の救いは、俺の下にやって来ないのかと。後に残されるほど、男は仲間を失う悲しみに苦しみ、それに呼応するかのように死者達への嫉妬に狂っていくのだった。


11: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/07/29(月) 23:45:10.76 ID:8MZ+TPk10
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 その男は、怒りに燃えていた。

 世界は、その男一人を残して滅んでしまった。どういうわけだか、その男にだけ「眠り病」の救いは訪れなかったのだ。幸いなことに、急激な人口減少のせいもあり、ソーラーパーネルによって半永久的に稼働し続ける政府の冷凍庫にはありとあらゆる物資が、今なお大量に残っており、生きていくうえで男が困ることはなかった。しかし、男は世界でたった一人の生き残りとして余生を過ごすことになってしまった。
以下略 AAS



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