32:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 22:22:08.20 ID:lCVrPTby0
「だからわたしが鯉を救うの。そうしたらみんなきっと気づくわ。いなくなって初めてわかるのよ。大切なものの存在に」
眉をきりりと吊り上げ、瞳をらんらんと輝かせ、ムギセンパイは断言した。このひとはマジだ。
「あのう、で、鯉を、どうやって?」
33:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 22:23:46.26 ID:lCVrPTby0
「あの、物質転送だなんて大がかりなこと、本当にできるんですか」
「どうかしら。わたし、スプーン曲げ以外やったことないから」
34:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 22:25:11.94 ID:lCVrPTby0
「決行は明日よ。善は急げ、ね」
「ちょ、ま、待ってください! まずは生徒会に相談してみましょう。それからでも遅くないですよ」
「それじゃ時間がかかりすぎるわ。はやく鯉を助けないと」
35:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 22:26:24.45 ID:lCVrPTby0
「とめないで梓ちゃん。わたしは決めたの」
「わ、わかりました。でも明日はやめましょう? ほら、どうせなら大安の日にしましょう」
「梓ちゃん」
36:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 22:30:06.04 ID:lCVrPTby0
そして運命の朝を迎える。
前夜は雨だった。
雨の日は意識が散漫になるので超能力には不向きと言っていた。朝までやまなければ決行は延期のはずだ。どうかこのままセンパイの誕生日まで雨が続きますように。私はてるてる坊主を逆さに吊るし、天に祈った。
37:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 22:32:09.01 ID:lCVrPTby0
なにごともなく一週間が過ぎた。
鯉のことは、まったく噂になっていない。毎日登下校のたびに水面を見るようにしているのだけど、相変わらず水が濁っていて中の様子がわからない。どうしても気になって仕方がなくて、私は生物委員の伊賀崎さんに訊いてみた。
38:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 22:33:23.53 ID:lCVrPTby0
噴水の人面魚が消えた。いや、盗まれた? いったい、だれが、なんのために?
実は超高級魚で、元々怪盗に狙われてたとか、突然変異で怪物化して自力で逃げ出したとか、とっくの昔にしんで捨てられただけとか、いろんな噂が駆け巡った。
軽音部内も人面魚の話でもちきりだ。
39:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 22:34:39.90 ID:lCVrPTby0
あることをきっかけに事態は毛色を変えた。事件が新聞に取り上げられたのだ。
地方新聞の小さな記事とはいえ、新聞の影響力はバカにできなかった。
記事を目にしたひとりの地域住民が学校に問い合わせたのを皮切りに、噂は広がり始めた。
マスコミ・PTA・教職員・地域住民を巻き込み、しまいにはテレビ局までやってきた(ローカル局だけど)。
40:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 22:36:44.01 ID:lCVrPTby0
全校集会の直後、ムギセンパイは職員室へ足を運び、自ら犯行を名乗り出た。
超能力のくだりを巧妙に隠しながらも、侵入時刻や鯉の様子など、細部に渡り犯行の全てを自供した。
ところが先生たちはムギセンパイの供述を一笑に付した。
成績優秀品行方正、先生の評価も高いムギセンパイが、そんなアホなことをするなんて、だれも信じるわけがない。
41:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 22:38:10.47 ID:lCVrPTby0
ムギセンパイはめためたに怒られた。
今までの人生でいちばん怒られたわ、と頭を垂れたムギセンパイが言った。
「自分勝手すぎたな、って」
42:名無しNIPPER[saga]
2019/07/01(月) 22:40:02.02 ID:lCVrPTby0
「ほら。鯉たちが自分で、噴水から出たい、なんて言ったわけじゃないでしょう」
「はい?」
「わたしの勝手な正義感を押し付けて、あの子たちを振り回したのはよくなかったわ」
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