【ミリマス】馬場このみ『衣手にふる』
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14: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/06/23(日) 22:27:18.49 ID:+aWMwZWyo
少しだけ間が空いて、それからまつりはゆっくりと口を開いた。

「……鶴さんはまじめで、人のことを大切にできて、それでちょっぴり臆病さんなんだって、姫は思うのです。」

「姫だったら。その大切な人と逃げちゃうのです。雪が降る道をふたり、えすけーぷ!なのです。」
以下略 AAS



15: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/06/23(日) 22:28:04.75 ID:+aWMwZWyo
一方のこのみは、その言葉を受け入れるまでに幾らかの時間を要していた。
確かに、まつりの言う通りである。
もしも娘が竹から生まれていたのなら、青年と離れたくなかったとしても、迎えに来た月の都の使いには従わざるを得なかっただろう。
しかし、娘はそうではないのだ。
たとえ鶴の世界へ戻れなくなったとしても、眩しいヒトの世界で生きる道もあるかもしれない。
以下略 AAS



16: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/06/23(日) 22:29:33.56 ID:+aWMwZWyo
「で、でも。それだと、迷惑になっちゃわないかしら……。」

このみはまるで自身のことのように思考を思い巡らせ、そう尋ねた。

娘にとって青年は、運命的な出会いを忘れられずに、もう一度手を伸ばした相手である。
以下略 AAS



17: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/06/23(日) 22:30:34.14 ID:+aWMwZWyo
まつりは自分のグラスの縁を指でそっと撫でながら、静かに口を開いた。

「きっと、大丈夫なのです。」

「好きなひとがひとりで悩んでいたら、力になりたい、と思うものなのですよ。」
以下略 AAS



18: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/06/23(日) 22:32:25.37 ID:+aWMwZWyo
娘が最後に打ち明けるまで、結局青年は部屋の戸を開けて秘密を覗くことはしなかった。
青年も、彼女の抱えた秘密を大事にしたかった。

「私が青年だったなら……。」

以下略 AAS



19: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/06/23(日) 22:33:36.48 ID:+aWMwZWyo
それからしばらくの間、このみは物語を読み返した。
二人の出会いも、二人のすれ違いも、そして二人の別れも。

今ならば、以前より娘に近づけるように感じられた。

以下略 AAS



20: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/07/07(日) 23:08:11.10 ID:2s7Ltdwho
***

午後2時を回った頃、このみはレッスン室にいた。
主にダンスレッスンで使われたりする部屋だが、それに限らず空いている時には多目的に使えるようになっている。
部屋の窓に面したある壁面には、板張りの床から白い天井まで、部屋の全体が映るほど大きな鏡が据え付けられている。
以下略 AAS



21: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/07/07(日) 23:09:06.00 ID:2s7Ltdwho

『もう行かなくちゃ。……本当の姿を知られてしまったら、私はもう此処には居られないの……。』

『ずっと言えなくて、ごめんなさい。……今まで、ありがとう。』

以下略 AAS



22: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/07/07(日) 23:10:14.30 ID:2s7Ltdwho
二人の関係性については理解が進んだが、当初引っかかっていた部分が解消されたわけではないのだ。
あともう少しで掴めるかもしれない、という感覚はあるのだが、一向にその先が見えてこなかった。

「……こういうときは、原点に立ち返って考えろ、よね。」

以下略 AAS



23: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/07/07(日) 23:14:10.33 ID:2s7Ltdwho
であるならばさらに前へとさかのぼる必要があるだろうとこのみは考え、開いていた資料を閉じて少しずつ因果の糸をたどっていく。
そして最後に行きついた場所はあの「屋根裏の道化師」の「シンシア」であった。
仕事の幅という意味だけでなく、このみ自身の経験としても大きく変化があった作品だと言えるだろう。
あの時は、どういう風に役と向き合っていただろうか?

以下略 AAS



24: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/07/15(月) 05:55:00.61 ID:6Cl8Fzkmo
事務室の中でも目を引くほど大きなガラス戸のついた書棚には、劇場のアイドル一人一人の営業用の資料をはじめとして、劇場内外の活動を納めた書類や写真、映像資料などが納められている。
劇場ができたばかりの時はまだ殆どものが納められていなかったが、劇場のアイドルたちが活躍して少しずつ棚が埋まっていくたびに、頻繁に部屋に出入りするこのみとして、嬉しく感じていた。

このみはそんな書棚から慣れた手つきで、棚の最下段にあったケースを取り出した。
ケースは透明で、ディスクの表面は真っ白で、黒の油性ペンでタイトルだけが記されていた。


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