21:名無しNIPPER[saga]
2019/05/28(火) 14:47:40.64 ID:VZdRWGZA0
──エレベーターが地下のフロアへ到着して、シンジの乗せたベッドは巨大な空間へと運ばれて行く。周囲には、何らかの作業を進めるスタッフの声が飛び交っていた。
『補給作業、搬入リストの86%までクリア』
「稼働中のN2リアクターは出力で90%を維持、圧力便は手動で解放してくれ」
「半径1200以内に艦影なし。未確認飛行物体も認められず」
「乗員の移乗は、Dブロックの船を最優先」
22:名無しNIPPER[saga]
2019/05/28(火) 14:50:04.62 ID:VZdRWGZA0
シンジは、体にまとわりついた重力を引きはがすようにして、ベットからゆっくりと体を起こす。
ブリッジの上に佇む女性の背中に目を向けた。その時、周囲のスタッフたちの妙な気配に気付き、彼らのいる方へと視線を送った。
彼らは、各々の持ち場に付きながらも、明らかにシンジのいる方へ意識を集中させていた。彼らは、憎しみとも怯えとも付かない表情を浮かべて背中越しにシンジを見ていた。シンジは自分の置かれている状況が把握できずに動揺する。そして、その答えを求めるようにして、ブリッジの女性の方へ顔を戻した。
「……ミサトさん?」
23:名無しNIPPER[saga]
2019/05/28(火) 14:51:07.76 ID:VZdRWGZA0
「そうね。物理的情報では、コード第3の少年と完全に一致。生後の歯の治療跡など身体組織は、ニアサー時を100%再現しているわ」
カーキ色のジャケットに身を包んだ女性は、電子カルテを眺めながらそう言った。金色の短髪と知的な声、そして彼女の発する語彙から、その女性は赤城リツコであることが伺えた。シンジはベッドから降りると、素足で床の上に立ち尽くしてブリッジを見上げた。
「なお、深層シンクロテストの結果は分析中」
リツコは、冷静沈着な口調で淡々と状況の説明を続ける。
「頸部へのDSSチョーカーは?」
24:名無しNIPPER[saga]
2019/05/28(火) 14:54:05.60 ID:VZdRWGZA0
「葛城、艦長って……? でも、やっぱりミサトさん?」
その時、シンジの首に巻かれていたチョーカーから電子音が発せられた。
「あれ……?」
リツコは、手に持っていたコントローラーを操作して、表示されたステータスを“ACTIVE”に切り替える。
「作動正常。パスコ―ドは艦長専用に」
25:名無しNIPPER[saga]
2019/05/28(火) 14:54:55.73 ID:VZdRWGZA0
シンジはチョーカーに手をかけて、首に巻き付いた鉄の輪を剥がそうとする。
「絶対にはずしませんよ……それ……」
ベレー帽の女の子は、両手でバインダーを抱きかかえながら独り言のようにつぶやいた。
「面会終了。彼を隔離室へ」
そう言ってミサトはモニターの方に向き直す。シンジは手を止めて唖然とした表情をブリッジに向けた。
26:名無しNIPPER[saga]
2019/05/28(火) 15:12:05.79 ID:VZdRWGZA0
「検体・BM-03、仮称『碇シンジ』さん。副長から説明があるそうです」
まるで刑務所のような鉄格子の中に隔離された部屋の中で、ベッドに横になっているシンジの背中に、ベレー帽の女の子が呼びかける。
「これが初号機……?」
ヴンダーの機体をモデリングしたCGを目の当たりにして、シンジが素直な感想を口にする。
「ええ。初号機は現在、本艦の主機として使用中。ゆえにパイロットは不要です」
27:名無しNIPPER[saga]
2019/05/28(火) 15:12:54.54 ID:VZdRWGZA0
「なんですかこれ……?」
モニターのCGは、シンジの首に巻かれた物に変わっていた。リツコは、それについて科学者然とした語彙で説明する。
「私たちへの保険。覚醒回避のための物理的安全装置。私たちの不信と、あなたへの罰の象徴です」
「どういうことですか……?」
シンジはその真意を読み取ることができない。
28:名無しNIPPER[saga]
2019/05/28(火) 15:13:22.39 ID:VZdRWGZA0
「それって……死ぬってことですか?」
29:名無しNIPPER[saga]
2019/05/28(火) 15:13:51.28 ID:VZdRWGZA0
モニターの映像が切られる。
「否定はしません」
モニターの前に座っていたシンジは、驚いた表情でリツコの背中を見る。リツコはシンジに背中を向けた状態でコンソールを見たまま振り向こうとはしない。
30:名無しNIPPER[saga]
2019/05/28(火) 15:15:07.40 ID:VZdRWGZA0
「そんな……ミサトさん、どういう事なんですか死ぬって!?」
シンジは、入り口近くの壁に寄りかかっていたミサトの方を見て訴えかける。少しずつだが、自分の取り巻く状況が分かってきたことで、感情が高ぶった声になって行く。
「変ですよミサトさん!急にこんなことになってて訳わかんないですよ!」
しかし、ミサトは腕を組んだまま俯き、口を開こうとはしなかった。その訴えを受け止める変わりに、リツコはシンジの傍らに立っているベレー帽の女の子を引き合いに出した。
「混乱するのも無理ないわ。少尉」
31:名無しNIPPER[saga]
2019/05/28(火) 15:16:31.87 ID:VZdRWGZA0
「あ、はい……でも、鈴原って……トウジの?」
シンジはその名字を聞いて思い当たった。しかし、目の前にいる女性の年齢が自分の記憶と噛み合わない。
「はい。お兄ちゃんがお世話になりました。妹のサクラです」
「妹!?お姉さんじゃなくて?」
「はい。妹です。ふふ……」
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