74:名無しNIPPER[sage]
2018/12/29(土) 14:04:06.87 ID:BWF1i+bVO
この男と「何となく」は切っても切れない縁で大学を決めた理由も「何となく」、今の会社を志望した理由も「何となく」である。
このアパートも会社から特別近い訳ではなかったが「何となく」決めてしまったのだ。『アザレア』という華やか名前とは程遠いこのアパートに惹かれるものがあるとは思えないが、それでも「何となく」ここに住み続けている。
「なんだ?隣の部屋から物音がするのか?」
75:名無しNIPPER[saga]
2018/12/29(土) 14:07:32.49 ID:BWF1i+bVO
「寒い……」
次の日、いつもと同じように男は洗面所に向かう。だがそこには何時もと違う光景があった。
このアパートの洗面所は狭く、出勤時間が重なる時間には渋滞する。男はそれを嫌いわざわざ早朝に目覚ましを合わせているのだ。そうすれば誰かとかち合うことは無かったのだが、今日の洗面所には人影が見える。
76:名無しNIPPER[sage]
2018/12/29(土) 15:27:41.96 ID:ceTzd8oAo
たん乙?
この切り口は思いつかなかった
続きがぜひ見たい
77:名無しNIPPER[sage]
2018/12/29(土) 16:39:02.21 ID:BWF1i+bVO
「ここの水道はコツがいるんだ。先ずは根元の元栓を開けてから蛇口をひねる」
「そそそそそ、そうだったんですね……」
「大家から何も聞いていないのか?」
78:名無しNIPPER[sage]
2018/12/29(土) 16:40:21.98 ID:BWF1i+bVO
「なんだ……あの女性は……それにこの胸の高鳴りは……」
男は恋愛経験があったがそれも人並みで「何となく」好印象だった女性と付き合っていただけだった。
そんな相手とは当然長続きなどするはずも無く、男も本気で誰かを愛したことなど無かった。
79:名無しNIPPER[sage]
2018/12/29(土) 16:41:46.64 ID:BWF1i+bVO
「明石さん、弁当ここに置いておきます」
「ああああ、ありがとう……ご、ございます……おおおお、お金を払い……ます……」
「気にしなくていいですよ。それより頑張って下さい」
80:名無しNIPPER[sage]
2018/12/29(土) 16:43:16.21 ID:BWF1i+bVO
「おおおおお、お金は……かかか、必ず払います……」
「余裕のある時でいいですよ。じゃあ俺はこれで」
「おおおお、お休みなさい……」
81:名無しNIPPER[sage]
2018/12/29(土) 16:44:33.83 ID:BWF1i+bVO
「具合悪いんですか?」
「だだだだ、大丈夫……で……す……」
ある日明石さんが洗面所で突っ立っていた。顔を洗っていた素ぶりは無く顔は青白かった。足取りも重く真っ直ぐ歩くことも困難だったので、彼女の部屋まで介抱してあげた。
82:名無しNIPPER[sage]
2018/12/29(土) 16:48:47.14 ID:BWF1i+bVO
「悪化したら救急車を呼んで下さいね」
「あああ、ありがとう……ごごごご、ございます……」
その日の俺は仕事が手に付かず、久しぶりに上司に怒られる羽目になった。
83:名無しNIPPER[saga]
2018/12/29(土) 16:50:07.43 ID:BWF1i+bVO
「行ってきます……」
返事の帰ってこない嘆きを部屋に投げて出社する。明石さんに会えななかった朝はなんとなく気分が落ち込んでしまう。
そういえばここ数日は朝に会うことは無かったし、昨日は早くに寝ていたようで俺が帰ってきた時にはもう部屋の電気が消えていた。最近体調が悪そうだったから心配だ、研究も大事だろうが自分の身も大事にして欲しい。
84:名無しNIPPER[sage]
2018/12/29(土) 17:30:39.95 ID:BWF1i+bVO
「寒く……ない」
暖房の効いた部屋で目を覚ました俺はそう呟く。新しく越してきたマンションは床暖房がデフォルトで入っているような素晴らしいマンションだ。ここに越してきて数日しか経ってないが、とても住み心地が良い。
俺が『アザレア』を出た理由はただ一つ、明石さんが消えてしまったからだ。会社から帰ってくると明石さんの居た部屋が空き部屋になっていた。大家に聞いても急に引っ越した、迷惑料として来月分の家賃も置いていったから文句が言えなかったと言われてしまった。
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