51:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:22:16.61 ID:TXxgAIfuO
主よ。貴方の定めたセイラムの運命は、
本当に、正しかったのですか?
52:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:22:53.83 ID:TXxgAIfuO
私は、ブローチを胸元に付けました。手を添えると、安らぎを得られるように感じました。
鏡に映る私は、目元が赤くなっていました。それをからかい笑うようなひとは、もういません。
部屋を出ると、神父様が待っていました。
53:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:23:59.29 ID:TXxgAIfuO
――私には姉がいました。
その洗礼名をセイラムといいます。
実姉ではなく、ただ先達としての存在であったことから、私が姉と思い慕っていた方です。彼女もまた私のことを、実の妹のように可愛がってくれていました。
54:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:24:36.01 ID:TXxgAIfuO
私はクラリス。
いまだ未熟な身で、きっと誓願を経てもなお、セイラム、貴女のように在ることは到底できないのでしょう。
けれど、貴女が生きたこの場所を、貴女と同じく愛していたいと、心からそう願っています。
55:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:25:11.25 ID:TXxgAIfuO
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あれから、二年という月日が過ぎました。
セイラムの脱離は教会の運営にきわめて大きな影響を残しました。収入の大きな部分を補っていた彼女がいなくなってしまったのですから、それも当然のこと。借り入れていた金額は日増しに大きくなり、返済は当然のように滞って――教会は物件として差し押さえられ、ついには使用を禁じられました。
56:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:25:53.98 ID:TXxgAIfuO
青空の下、花の落ちて緑だけが美しいバラ園の中、私はCDプレイヤーの停止ボタンを押し込んで微笑みます。
「ふふ、素晴らしい合唱でしたね。きっと、神様にも届いたと思いますよ。今日はこれでおしまいにいたしましょう」
聖歌隊の子供たちは、邪気のない顔で私に別れと再会の約束を告げ、帰途に着きます。その彼らに、次の日曜日もまたこの場所でと、そう伝えなければならないのがただただ辛い。
57:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:26:40.61 ID:TXxgAIfuO
ふと、その私の頭上に影が差しました。
「――どうして悲しげなの?」
不意のことでしたが、質問が私に向いていることは明らかでした。表情をあらためて、私は目に入った黒革のパンプスにこたえます。
58:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:27:46.91 ID:TXxgAIfuO
きっと、あたたかな心を持つひとなのだろうと思いました。そうしてようやく、顔も見ずに話している無礼にはたと気付きます。
取り急ぎ、立ち上がって――目を合わせるや茫然として、自らを忘れました。
「でも、間に合ってよかった」と言うその顔は、慈しむように微笑んでいました。
59:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:28:58.71 ID:TXxgAIfuO
申し訳ございません、>>58はミスです。以下に訂正を。
60:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:29:47.58 ID:TXxgAIfuO
他人事であるはずなのに、その声は私の内情に優しく添うようでした。
きっと、あたたかな心を持つひとなのだろうと思いました。そうしてようやく、顔も見ずに話している無礼にはたと気付きます。
取り急ぎ、立ち上がって――目を合わせるや茫然として、自らを忘れました。
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