【モバマス】クラリス「魔女・セイラム」
1- 20
19:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 17:57:24.19 ID:TXxgAIfuO
 年は暮れるや明け、「行く」「逃げる」「去る」と言い表される年初の三ヶ月は慌ただしくも過ぎ去りました。

 変わらないと思っていました。些細なことは日々変わりゆけども、大いなる根幹は小揺るぎもしないと。

 そんな甘やかな希望に充たされた私の考えは、表出した違和の痛みによって一変してしまいました。
以下略 AAS



20:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 17:58:23.45 ID:TXxgAIfuO
###

 私がそれを知ったのは、ほんの偶然でした。

 午前の日曜礼拝を終えたのち、私は神父様を探していました。午後の礼拝に私が出席する必要があるかどうかを訊ねるためです。
以下略 AAS



21:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 17:59:08.18 ID:TXxgAIfuO
 盗み聞きをするつもりはなかったと、その「つもり」はほとんど言い訳のようなものです。

「支払いはいつだったか」と神父様が訊ねました。
「一週間後ですね」とセイラムがこたえます。

以下略 AAS



22:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:00:01.72 ID:TXxgAIfuO
 神父様とセイラムの普段の関係性を、私はまるであるカートゥーン・アニメに登場するネコとネズミのようだと、軽妙で調子の良いものだと考えていました。

 けれど、そのときのふたりに横たわる空気はあまりにも重々しく、強張り、異常を響かせていたのです。

 もう出会ってからずいぶん長いというのに、いまのいままで私が知らなかったふたりの顔。拍動する戸惑いと、静かに覚醒する恐怖に近い感情がありました。
以下略 AAS



23:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:00:38.01 ID:TXxgAIfuO
 息詰まったような声が、セイラムののどから漏れました。

「お前、いつから」と言ったのは神父様です。
「……つい、さきほど。あの」

以下略 AAS



24:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:01:42.49 ID:TXxgAIfuO
 私は午後の礼拝に参加する必要がなく、私室で気もそぞろに日暮れを待ちました。木造りの寝台に腰掛け、何を見るわけでもなく何かを見ているうち、虹彩が闇の訪れに反応を始めます。電灯をつけることさえ忘れていました。

 少しののち、ノック音が響いて、扉の奥からオレンジ色の明かりが差し込んできました。

「……電気くらい点けようよ」
以下略 AAS



25:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:02:18.23 ID:TXxgAIfuO
「実はね。ここ、結構前から資金繰りに困ってるんだよ。ちょっと……っていうか、だいぶ?」

 話はごく単純なものでした。

 もともと、規模の小さなこの教会の運営は余裕のあるものではなかったそうです。
以下略 AAS



26:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:03:11.67 ID:TXxgAIfuO
「本当はね」

 思索に沈みかかった私を、セイラムの申し訳なさそうな声が呼び戻します。

「貴女が十八になったら……正規に誓願を立てて、正式にシスターになる段が来たら。そこでちゃんと話すつもりだったんだ。どうしたって愉快な話じゃないから。こう言っちゃうと気を悪くするかもしれないけど、貴女はまだ、やっぱり子供だったから」
以下略 AAS



27:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:04:04.41 ID:TXxgAIfuO
「えっ。ちょ、ちょっと?」

 慌てた声が聞こえて、私も慌てて目尻をぬぐいました。

「すみませんっ」
以下略 AAS



28:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:04:47.97 ID:TXxgAIfuO
 なお慮るように顔を覗き込むセイラムに、私は努めて笑みを向けました。

「あの日。去年の聖誕祭に。言ったでしょう」
「……聖誕祭?」
「この居場所を一緒に守ろうと、貴女が。私は、はいとこたえたじゃないですか」
以下略 AAS



29:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:05:56.71 ID:TXxgAIfuO
 私が神父様に意思を伝えると、彼はきわめてかしこまったふうに、「あらためてよろしくお願いするよ」とおっしゃいました。ほかのシスターたちも、私の選択を喜んでくれました。

 心新たに、人心のためにさらに努めよう。私はそのように考えるようになりました。

 ――とはいったものの、私の生活が劇的に変わることはありませんでした。
以下略 AAS



73Res/52.75 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice