提督「時雨、梅雨、雨、かたつむり」
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1:名無しNIPPER[saga]
2018/05/30(水) 15:29:05.28 ID:OsyhJzOS0
曇天。後ろより光に透かされた灰色の朝。響くのは雨音のみ。

人の往来まだなし。また平素にさえずる鳥の羽音もなし。

雨に塗られたアスファルトとブロック塀が存在の重みを増していた。

水たまり。その水面は雨につつかれ幾重かの波紋に揺られる。

ぱしゃり。時雨が横切った。黄色い洋傘をさしている。

傘生地の裏ごしから時雨に届く雨の響きは弱い。

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2:名無しNIPPER[saga]
2018/05/30(水) 15:30:26.13 ID:OsyhJzOS0
傘を畳んでしまってもかまわなかった。

側路にはいかにも梅雨景色らしくアジサイがあった。

時雨は立ち止まる。
以下略 AAS



3:名無しNIPPER[saga]
2018/05/30(水) 15:31:38.68 ID:OsyhJzOS0
いまにも落っこちてしまいそうだったので、指を添えてバランスをとらせる。

安定。ぐるぐるうずまき模様の殻を背負ってゆっくり進みだす。

ちょんちょんとつついて、かたつむりを何度か萎縮させて遊ぶ。
以下略 AAS



4:名無しNIPPER[saga]
2018/05/30(水) 15:33:32.39 ID:OsyhJzOS0
日常系を書こうとしたら、想像以上に早く終わってしまった

以前落ちた短編安価スレのエピソードを再録して場を濁します


5:名無しNIPPER[saga]
2018/05/30(水) 15:34:58.39 ID:OsyhJzOS0
朝潮ちゃんは声を聞いた。それは「朝潮ちゃん!」と聞こえた。

後ろを振り向く。誰もいない。上を見上げた。シャンデリア。鏡を覗き見る。朝潮ちゃん。スカートの中に顔を突っ込む。謎の光。

室内には誰もいない。そして、室外は存在しない。なので、誰も朝潮ちゃんを呼んでいなかったと結論付けられる。
以下略 AAS



6:名無しNIPPER[saga]
2018/05/30(水) 15:36:10.05 ID:OsyhJzOS0
幻聴には己自身を責め立てるような響きが通常伴うが、その声は感情的にフラットで、いかなる言外の含みも抽出できなかった。

幻聴ではないなら実在する音声のはずだが、朝潮ちゃん以外に「朝潮ちゃん!」とそもそも発言できる存在はいないので、やはり現実的な音でもないことになる。

夢でも現でもない排中律を無視した第三領域から、好意からでも敵意からでもなく、届く呼び声。
以下略 AAS



7:名無しNIPPER[saga]
2018/05/30(水) 15:37:40.13 ID:OsyhJzOS0
確かに、呼び声が例えば「フランシス・ベーコンちゃん」であったのなら、朝潮ちゃんも戸惑ったであろう。いつの間に朝潮ちゃんはベーコンちゃんになったのだろうかと疑問に思うのももっとものはずだった。

それに「フランシス・ベーコンちゃん」とはどの「フランシス・ベーコンちゃん」かの問題もある。哲学者として四つのイドラ概念を導入したり、聾教育にでも力を注ぐべきなのか、芸術家として恐怖の叫びを描き、二十世紀の具象絵画に新天地を啓くべきなのか。

そうしたさまざまな迷いが不安となり、最終的には己の実存性を疑うという不愉快な恐怖に繋がったであろう。
以下略 AAS



8:名無しNIPPER[saga]
2018/05/30(水) 15:39:54.62 ID:OsyhJzOS0
大潮の敬愛すべき姉と、誠実な良心と健全な精神を持った司令官との祝宴の夜のこと。

事の発端は本当に何気ない、それこそ大潮自身にさえ記憶されないことであった。

姉との相部屋だったが、大潮は一人、大きく開かれた窓から夜空を見上げていた。時間が止まったかのように風切り音や虫鳴りといった本来あるべきものがなく静寂に包まれていた。
以下略 AAS



9:名無しNIPPER[saga]
2018/05/30(水) 15:42:02.50 ID:OsyhJzOS0
大潮が時間の巻き戻りという事実に気づくまでそう時間は要さなかった。

日付を表示する目覚まし時計のベルを止めて、ああ後でズレを直さないといけないと思いつつ着替えと朝食を済ました大潮は、執務室に挨拶しに行く。

途中姉に出会ったので、「よ! 昨夜は司令官とお楽しみでしたね! いわゆる初夜です! やっぱり燃えた!?」、気分をアゲて茶化してみた。反応は思っていたより冷たいものだった。「ふぅ、あなたまで荒潮みたいな冗談を言い出したら、もはや私の手には負えないわ」
以下略 AAS



10:名無しNIPPER[saga]
2018/05/30(水) 15:44:35.93 ID:OsyhJzOS0
大潮はなぜ己が過去に戻ったのか、その理由も原理も何も理解しなかった。それでも、大潮には生来の楽観さと無邪気さがあったので、大して巻き戻りを悩むことなく、その生活に順応していった。

むしろ、未来人であった大潮はとりわけ積極的に姉と司令官との関係を支援した。ある程度どこに問題が発生し、その原因も知っていた大潮は彼らのキューピットとしては非常に有能であった。

また大潮自身、姉と司令官とが己の助力のおかげで絆を強めていっていると思うと、全能感にも似た幸福を感じるのだった。
以下略 AAS



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