166: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/07/15(日) 23:38:26.55 ID:1DFdeF0E0
その場を離れ、通路に出る。
目を閉じ、鼻から大きく息を吸い込む。
埃の匂い、金属の匂い、コンクリートの匂い、油の匂い、人間の匂い。
――いい匂いがする。
頭に会場の見取り図を思い浮かべる。
芳香を頼りに移動。ひとけのない区画、医務室、ドアを開ける。
「あっ、志希ちゃん」
夕美ちゃん。簡易ベッドに腰かけ、テーピングのほどこされた片足を浮かせている。
「こんなところにきて平気なの? プロデューサーさんたちに見つかったらまずいんじゃない?」
事情はおよそ伝わっているらしい。あたしを探すプロデューサーかスタッフがこの部屋に来たのかもしれない。
「もう始まってるから、見つかっちゃってもいいよー。それに彼らはほたるちゃんのステージに釘づけで、たぶん終わるまではこない」
ドアは開けたまま部屋に入る。
ここは通常、医療スタッフが待機している部屋のはず、しかし姿はない。
「夕美ちゃんひとり? お医者さんとか看護師さんは?」
「隣の部屋にいるよ。なんかここを臨時の控室にするんだって」
控室の惨状を思い出す。砕けた照明、散らばった鏡の破片。でも、それだけなら他の部屋でもいい。処置が済んでいるとはいえ、夕美ちゃんをひとりにする理由にはならない。
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