59:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 02:14:22.86 ID:kLIsZwOI0
いきなり体が宙に浮かんだ。いや持ち上げられた。
驚いて目を開ける。嘘!?眩しい…持ち上げる手が温かい。
「この子にするわ」
60:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 02:14:53.56 ID:kLIsZwOI0
猫用のキャリー・カートに詰め込まれた。どうしてだろう、何も考えられずただただ困惑している。
思い当ることは一つ。ゴミ屋敷に連れ込まれて殺されてしまうのかもしれない。キビャックの材料として海獣の腹に詰め込まれるかもしれない。皮を剥がれて三味線にされるかもしれない。
キャリー・カートが開いた途端逃げるが勝ちだ。まともに戦って勝てるわけがない。どんなに相手が非力であっても家というホームグラウンドに連れ込まれるのだ。負ける可能性が高い。
BNKRGは口元を固く閉じ、身を引き締める。瞳孔を操作し、光に慣れるよう努力もした。
体中が浮く感覚がして、酷くカートの中が揺れた。カートごとどこかに下ろされたようだ。恐らく車で運搬し、家に着いた後カートをどこかに下ろしたのだろう。
61:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 02:15:20.76 ID:kLIsZwOI0
しばらく経ってもカートは開かず、BNKRGは焦り始めた。どうしたのだろうか、逃げないように外で網を用意しているのだろうか。
機械的な音とチーンという音が聞こえた後、唐突にカートが開いた。
一瞬呆けたがそのまま勢いで出た。
しかし出たすぐのところで足がすくんだ。いや、足が止まったと言って差し支えない。
62:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 02:15:56.22 ID:kLIsZwOI0
籠に入れられて連れられた先はTISの家の食卓だった。カートはバカでかい机の端に置かれていたのだ。
煌びやかに広がる料理群には豪華絢爛の文字がふさわしい。
立ち上る湯気と香気に思わずBNKRGは立ちくらみを起こした。
そういえば動物愛護センターでの食事後、何も食べていない。ALISONの家からの脱走した後愛護センターで食事はしたものの、それ以来BNKRGは満腹まで食事した記憶がない。
よだれが自然と出てきた。顔を振ったが目の前の誘惑には勝てなかった。
63:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 02:16:24.66 ID:kLIsZwOI0
ご飯を食べた後、強引に風呂に入れられた。
愛護センターで体が汚れていたためか、かなりお湯は汚れた。まさに生き返った気分だ。
体中に水滴がついてムズムズしたため、BNKRGは体を震わせた。水しぶきが飛んでTISがむせた。
しまった、と思ったが後の祭りだ。申し訳なく体を縮めているとTISはむせるのをやめ、丁寧に体を拭いてくれた。
そうか、猫が体を震わせて水気を飛ばすのはこういう事か。
64:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 02:16:58.52 ID:kLIsZwOI0
風呂を出た後BNKRGはトイレの説明を受けた。
そんなもの分かるに決まってると口を出したかったが、猫語なので通じるはずがない。
冗長な説明が終わった。TISはリビングでテレビを見ている。
TISはどうやら一人暮らしのようだ。初めて知った。
ゴミ屋敷と噂だったが噂されるほどゴミ袋が多いわけではない。少し散らかっている程度だ。
65:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 02:17:24.89 ID:kLIsZwOI0
リビングのソファーに座るTISは、BNKRGを隣に置いている。
逃げるなら今だ。そう思うのだが、撫でる手が妙に優しかった。
好意に飢えていた。BNKRGは手の感覚に身を任せ、半分困惑半分安堵で目を細める。
「まだ生きてていいのかな」少しだけ胸に暖かいものを感じたが、「猫殺し」という言葉が脳裏をよぎり、すぐに罪悪感で俯いた。
66:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 02:17:55.46 ID:kLIsZwOI0
「名前、つけとらんかったな」
TISは呟いた。BNKRGにとっては元人間だが、TISにとっては名無しの野良猫だ。
「どんなんがええかな」
BNKRGは口を開きかけたが、やめた。独り言が多い女である。
「まぁず」肩を叩かれた。
67:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 02:18:26.70 ID:kLIsZwOI0
寝る時間になったのかTISは別の部屋へ向かった。
BNKRGはため息をつき、ついていった。
一緒に寝るんか、と呟いた。
その声がどことなく寂しげで、そして嬉しそうで、BNKRGは困惑した。
まぁずとは、誰か大切な人の名前だったのだろうか。
68:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 02:18:54.61 ID:kLIsZwOI0
「痛い! ちょっと」
「あの人も私を捨てたけど、まぁずは私を受け入れてくれるんやね」
腕が緩んだ。半分涙声だ。
69:名無しNIPPER[saga]
2018/02/06(火) 02:19:34.49 ID:kLIsZwOI0
下ろされ、BNKRGは距離をとった。
死ぬ?TISが?
なんのことかわからなかった。
一人ぼっちのTISと、愛護センターで孤独であったBNKRGと姿が重なった。
このまま死ぬまで猫でいるなら、彼女を一人にして出ていくわけにはいかない。孤独死させてしまう。
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