15: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 21:04:11.73 ID:bbgcA4Fi0
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「あれ、ここにあったビデオカメラ、どこにいっちゃったのかな……?」
16: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 21:04:50.98 ID:bbgcA4Fi0
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「結構な量になってしまいましたわね……雪歩ちゃん、重くないかしら?」
17: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 21:05:49.40 ID:bbgcA4Fi0
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「お帰り、雪歩さん。話はできた?」
18: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 21:07:32.34 ID:bbgcA4Fi0
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何が重なったのか、ひどく頑なに口を閉ざされたものだと桃子は思う。胸を張って未来を語っていた時の活き活きとした姿は、もう振る舞いにしか残っていないように見えた。
悩んで、もやもやして、でも打ち明けようとすることもできなくて……それなら何でもないように見せた方がずっと良いから、普段の自分を演じている。こと演じることについては一家言もっている桃子にとって、そういう様子はむしろ異変を浮き彫りにして見せているようで気持ち悪かった。
19: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 21:08:41.15 ID:bbgcA4Fi0
千鶴はバッグから折りたたまれた数枚の紙と、ブレスレットのようなものを四つ取り出した。ブレスレットはどれも似たようなデザインで、煌びやかでありながら柔らかさを感じさせる。そして一様に、どこか簡素で物足りない印象を桃子に与えていた。
「……それは?」
「ロコアート。それとそのデザイン画みたいですわ」
20: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 21:09:14.78 ID:bbgcA4Fi0
「桃子、は……」
「桃子、あなたの気持ちは想像することしかできませんけど……これだけは胸に留めておいて。コロちゃんがこのアートを捨てようとした理由は、決して桃子にはないですわ」
「…………気休めは、よしてよ。そういうの……」
21: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 21:10:05.10 ID:bbgcA4Fi0
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本番と同じ環境で練習する機会を数多く用意することができることは、765プロが劇場を有することによる恩恵の一つとして挙げられる。特に、新人アイドルにとっては公演によって顔を知ってもらう機会を増やせることに並ぶ大きなメリットと言えるだろう。
当然ながらスケジュールの調整は必要になるものの、外部の会場と比べればそのハードルも大幅に低くなる。公演やその準備、片付けが入っていない時間であれば、ステージの広さに合わせた動きをするための練習も比較的気軽に行えるわけだ。
22: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 21:10:51.90 ID:bbgcA4Fi0
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――最近、チヅルとモモコがよそよそしい。
がたんがたんと揺れる電車の中で、ロコはそう思っていた。レッスンの合間に挟まっていたお仕事を終えて、これで残りはあと少し。もうすぐレッスンに専念できるようになるというのに、それとはまた別の不安を抱えてロコは一人で劇場へ帰っていた。プロデューサーは他のアイドルのお仕事のためとかで、直接車を回して次の現場へ向かっている。
23: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 21:11:32.14 ID:bbgcA4Fi0
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こうしてみんなにお茶をいれるのも、なんとなく板についてきたかな、と雪歩は思う。もうすぐ劇場に戻ってくるはずのロコのために、とびきり熱いお茶を用意していた。
ちょっとだけでいいからお話したい、とメッセージが届いたときには少しだけ驚いたけど、そういう受け皿に自分がなれるのであればそれは願ってもないことだと思う。ロコが精神的にも本調子でないことは彼女の素振りからも感じ取れたから。
24: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 21:12:17.93 ID:bbgcA4Fi0
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『事務所に戻ったら控室に来てください』
25: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 21:13:43.97 ID:bbgcA4Fi0
「…………自分に、怒りを通り越して呆れしか出てきませんわ」
そう、簡単に言ってしまえば一言で済む話。千鶴がロコに説いた言葉とは裏腹に、千鶴自身はロコに何も伝えようとしていなかったのだ。
頼りになる、と小さくこぼしたロコの言葉を、その幻想を守りたくて……いや、それも美化している。誰かに頼られる二階堂千鶴を守りたい一心で、彼女の気遣いを受け流した。それがロコの自信を奪い続ける行為だって、自覚もせずに。
千鶴こそが、真っ先に心を明かしてロコを支えてあげなきゃいけなかったのだ。ただ一人、それができるはずだったのだ。言葉を受け止めていたはずのに、彼女から伝えられたもの一つ教えてあげられなかったから。だから今、ロコは苦しんでいる。
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