24: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/12/31(日) 21:12:17.93 ID:bbgcA4Fi0
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『事務所に戻ったら控室に来てください』
個別レッスンが終わり、雪歩から届いたメッセージに従って劇場の廊下を歩いていた千鶴は、こちらは仕事終わりと思しき桃子と鉢合わせした。
「お疲れ様ですわ。もしかして、桃子も雪歩ちゃんに呼ばれて?」
「……ってことは、千鶴さんも? ステージ練習を踏まえてミーティング、とかかな」
「かもしれませんわね。待たせてしまってはいけませんし、向かいましょうか」
二言、三言を交わし、足早に指定された部屋まで向かう。開いた扉の先で、深刻そうな表情をした雪歩が一人で待っていた。それだけで、尋常でない様子を感じ取ってしまう。
「雪歩ちゃん、どうしましたの?」
「あ、二人とも。……その、ロコちゃんが」
いやな予感が膨れ上がった。それが確証に変わってしまうよりも早く、雪歩は言葉を続ける。
「しばらくレッスンを休むって……。それで、千鶴さんに伝言してほしいって」
「……コロちゃんは、なんて?」
声が震えなかったのは、ほとんど奇跡だった。すぐに打ち砕かれて意味をなくしてしまう、脆いものでしかないけれど。
「やっぱりロコにはできませんでした、ごめんなさい……そう、言ってました」
ぎゅっと目をつぶって、ぎりぎりと音が鳴りそうなくらいに雪歩の言葉を噛みしめた。そうしないと、二階堂千鶴が一片も残さずに崩れ落ちてしまいそうだったから。
「ろ、こ……? それって、どういう……」
千鶴の隣で呆然と声を震わせる桃子のように。彼女の姿が、かえって千鶴を踏みとどまらせた。
ロコがこの前の通し練習での失敗を気にしている様子はあった。でも、できなかったという言葉は、そのことを指すものじゃないだろう。きっとそれはアートに頼らず言葉で気持ちを伝えるというロコの決心についての言葉だ。
「雪歩ちゃん、もう少しだけ、詳しく聞かせてもらっても、大丈夫かしら?」
「うん。そのために、来てもらったから。……二人も、話、聞かせてほしいな」
そうして、雪歩はつい先ほどの出来事を語り始めた。その内容は――
――千鶴の中で、自分のしてしまったことを繋げるに足るものだった。読み取れていなかった空白を理解してしまえば、自分が守ろうとしていた二階堂千鶴が、いかに矮小かを思い知らされるようだった。
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